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新首都圏ネットワーク

nikkeibp.jp 2005年8月5日付

独自の「地域知財戦略」で産業力を強化
九州経済産業局・地域経済部(上)


 「地域産業の振興へ向けた起爆剤として知財への関心が急速に高まってい
る」。経済産業省九州経済産業局の地域経済部技術企画課,特許室長の武田一
彦氏は,このように指摘する。同局は,知財を通じた九州地域の産業振興に積
極的に取り組んでおり,2005年に産官学が連携して「九州知的財産戦略協議会」
を立ち上げ,さらに「九州知的財産推進計画」をこの6月に発表した。同氏に,
九州における「地域知財戦略」の状況と方向性を聞いた。

(聞き手は河井貴之=日経BP知財Awareness編集)


九州地域の産学官が連携して知財活用環境の整備を強化

 九州の経済規模は,2003年時点で地域総生産額が約44兆円,人口が約1,300万
人であり,それぞれ日本全体の約10%に当たる。自動車産業,半導体産業をはじ
め,鉄鋼,造船,化学,食品加工産業など多様な産業を擁する。数多くの大手
メーカーが主要な生産拠点を設置している一方で,九州に本拠地を置く地場企
業の規模は中堅以下がほとんどであり,1980年代以降に創業した「若い」企業
が多いことも特徴である。こうした状況から,中小・ベンチャー企業支援が地
域産業を振興する上で大きな課題となっている。

 九州経済産業局は,地域産業の起爆剤の1つとして知財を重視してきた。
2003年11月に設立した「九州知的財産戦略センター」は,企業からの知財に関
する企業からの相談に対応することなどに加え,九州地域の小中高校生や教職
員を対象とした知財教育を推進している。

 しかし,九州内の企業における知財活用体制は,東京や大阪と比較するとま
だ十分ではない。今後,日本国内における知財への取り組みの格差,「知財デ
バイド」が拡大する恐れがあることから,2005年,九州地域の民間企業や大学
などと協力し,「九州知的財産戦略協議会(議長:東陶機器社長,木瀬照雄
氏)」を設置,産学官が協力して知財活用環境をさらに整備していくことになっ
た。

地域知財戦略の指針,「九州知的財産推進計画」を策定

 九州知的財産戦略協議会は,「九州知的財産推進計画」を2005年6月に策定
した。同計画は九州地域として独自の知財戦略を具体化したものであり,毎年
度更新していく。2005年度は,(1)九州地域の知財に対する意識向上,(2)
知財の保護強化,(3)知財の適切な利用促進,の3要素を軸とした活動を実
施する。加えて,九州地域における知財への取り組み実態を詳細に調査し,方
向性を検討していく。

「地域ブランド」で実績を持つ九州地域

 知財という枠組みでは,製造業などの工業だけでなく,農業・観光業なども
重要な戦略分野となる。2005年の商標法の一部改正で「地域団体商標」が認め
られたことで(関連記事),地域ブランド戦略への関心が高まっている。九州
地域は,「関あじ・関さば」,「かごしま黒豚」,「あまおう」ブランドのい
ちごなどの農林水産品,「博多人形」などの工芸品,大分県の別府や湯布院な
ど有名観光地における地名関連ブランドの共有など,民間レベルでの取り組み
が従来から盛んだった(写真1)。今後は,九州経済産業局も積極的に支援す
る方針であり,現在,特許庁では,「商標法改正説明会」を九州域内で開催し
ている。加えて,特許庁,九州経済産業局では「デザイン・ブランド戦略セミ
ナー」を福岡,大分,鹿児島において開催することを検討中である。