トップへ戻る  以前の記事は、こちらの更新記事履歴
新首都圏ネットワーク

『南日本新聞』社説 2005年7月5日付

【医学部地域枠】離島へき地医療への意欲培う制度に


 鹿児島大学は2006年度から医学部医学科の推薦入試に、県内の離島へき
地医療を志す受験生のための「地域枠」を新設する。県の奨学金制度と連携し
て、深刻な医師不足の解消に寄与することが狙いだ。

 県内には医療機関を容易に利用できない「無医地区」が16カ所ある。県の
ホームページで医師を募集中の診療所も少なくない。大学に派遣を要請したり、
つてを頼りに採用するだけでは医師の確保に限界があることを示している。

 地域枠は2人で、県内の高校のその年の卒業見込みの者か、前年の卒業生に
限られる。高校長の推薦が必要で、センター試験の成績と面接などで判定する。

 入試要項には「地域医療、特に離島へき地診療に従事しようとする強い意欲
と情熱を持つ者」と明記された。地域に根ざす大学が地元の現状に目を向け、
解消策に取り組む姿勢は評価すべきだ。

 地域枠を導入する動きは全国の国立大医学部である。今春は3大学が実施し、
来年度は鹿大のほか宮崎大など6大学が加わる。注目されるのはこの制度が、
鹿大生を対象にした県の奨学金制度と密接に連携している点だ。修学資金まで
支援する試みはほかではないという。

 地域枠合格者には6年間で総額940万円が支給される。卒業後に5年間
(臨床研修の2年を含む)県内の離島やへき地の公的医療機関に勤務すれば、
返還は免除される。

 この地域枠と奨学金制度が発足して10年ほど後には、年間10人以上の医
師を派遣できる態勢が整うことになる。鹿大は、卒後臨床研修プログラムに離
島やへき地の診療所での研修を盛り込んでいることを考え併せると、大きな戦
力になるものと期待してよさそうだ。

 医師の絶対数の確保に加え、診療技術の充実を図ることも重要である。大学
はインターネットを通じた遠隔医療や講義に一層力を入れてほしい。「研修や
技術向上の機会が少ない」として辺地への赴任を敬遠する傾向や、大都市への
医師偏在の改善につながるだろう。

 卒業後のへき地勤務は自治医科大学が先行実施している。県内で卒後勤務し
た医師は38人いるが、うち11人は県外に転出した。せっかく医師を育てて
も、あっさり離任しては寂しい。義務終了後も勤務するような地域枠が望まし
い。

 求められるのはへき地医療に対する誇りと情熱を抱き続ける人材だ。地域に
腰を据えて取り組む医師を養成しないと、医療過疎は根源的に解消できまい。