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『東京新聞』2005年7月18日付 大学発ベンチャー 優 遠く 国立大独法化も後押し 1000社突破 大学で生まれた技術や発明を起業に結びつける「大学発ベンチャー」の企業 が急増している。国立大の独立法人化で拍車がかかり、全国で千社を突破した。 だが、事業化に時間がかかって経営難に陥る企業もあるほか、大学の研究に利 潤追求が絡むことで、新たな問題も生まれている。 (名古屋社会部・砂本紅 年) 「設立から六年で、ようやく年内にも培養表皮が製品化できる見込みとなっ た。覚悟はしていたが予想以上に時間がかかった」。全国で初めて再生医療を 事業化した「ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング」(愛知県蒲郡市)の 大須賀俊裕専務は言う。 同社は一九九九年、名古屋大医学系研究科の上田実教授の技術を基に設立。 人間の皮膚や軟骨、角膜の培養事業に取り組む。 重傷のやけど治療の培養表皮だけで二十億円の新市場が見込まれるが、会社 設立後に培養製品に関する国の法規制ができたため商品化が遅れた。研究開発 費は国の補助金や賛助企業の出資金で賄うが、赤字経営が続く。 上田教授は「大学発ベンチャーは、大学の組織の旧弊を壊す試み」と期待。 「光と影の部分があるだろうが、やる価値がある」と力を込める。 ■支 援 経済産業省のまとめでは、今年三月末までに全国で千百十二の大学発ベン チャーが誕生。二〇〇一年から始めた「大学発ベンチャー千社計画」を達成し た。大学別では、東大が六十四社でトップ、次いで早大六十社、大阪大五十四 社となっている。 起業ラッシュには、一九九八年に大学から企業への技術移転に関する法律が 施行され、二〇〇〇年には国立大教員の企業役員兼業を解禁するなど、国の支 援策が果たした役割も大きい。 〇四年四月から国立大が独立法人化。教授らの発明による特許は従来、ほと んどが発明者個人に帰属していたが、法人化後は原則として大学に帰属するよ うになった。特許の移転も、大学が組織的に支援することになった。 移転した特許を企業が使うと、使用料が大学に入るほか、今年三月からは、 国立大が株を取得することも可能に。ベンチャーの利益を大学の収入源にでき る仕組みが整ってきたのだ。 しかし、既に上場したか、今年中に上場予定の大学発ベンチャーは計二十二 社しかない。事業化の手前の研究開発段階にある企業が半数を占め、大半が赤 字経営。ベンチャーの草分けで、名城大から生まれた日本レーザ電子(名古屋 市)が昨年五月、経営破たんするなど、破たんや休眠状態に陥る企業も出てき た。 「すぐれた技術を持っていても、経営ノウハウに欠けた大学の教員が多い」 と、名古屋大などの特許を民間に移して事業化する財団法人「中部TLO」の 技術管理部長・徳永良邦さん。人材不足や資金難は大きな悩みだ。 大学発バイオベンチャー協会会長で、東京慈恵医大教授の水島裕さんは「成 功例のモデルが早く出ることが一番。そうすれば人材も集まってくる」と話し ている。 ■利潤追求 国立大の教授が企業役員も兼ね、経済的な利益を追求すると、教育がおろそ かになったり、研究成果の公正さや信頼性が疑われかねないという問題も起き てきた。 昨年六月、遺伝子治療薬の開発を進める大阪大発のベンチャー「アンジェス MG」で、臨床研究にたずさわった同大の医師が、同社の未公開株を取得して いたことが問題となった。 未公開株の取得自体には問題はないが、株主という利害関係者が研究に参加 すると、結果を意図的に操作する恐れがあるとされたのだ。同社社長室マネ ジャーの林毅俊さんは「研究には外部監査を入れて透明性を確保していたが、 未公開株取得などに関する大学のガイドラインがないため混乱した」と言う。 その後、各大学でガイドラインづくりが進んだが、微妙なケースは多く、起 業の足かせになりかねない。あずさ監査法人名古屋事務所で産学連携の橋渡し を担当する轟芳英さんは「あいまいなケースを判断、アドバイスできる専門家 の養成が急務」と指摘している。 |