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新首都圏ネットワーク

『読売新聞』社説  2005年7月4日付

[科学技術計画]「これで国際競争に勝てるのか」


 こんな漠然とした目標で科学技術立国が可能か、不安だ。

 来年度から5年間の国の科学技術政策の進め方について、内閣府の総合科学
技術会議が「基本方針」をまとめた。

 方針は、目標として「飛躍的な発見や発明」「科学技術の限界突破」「環境
と経済の両立」など六つを挙げている。新たな知識を創造し、日本の国際競争
力を高めると同時に、国民が「健康で安全な生活」を送れる国を目指すという。

 これに基づき年度末には、今年度まで5年間の「第2期科学技術基本計画」
に続く、「第3期計画」をまとめる。

 だが、あまりにも総花的だ。具体的な研究開発プロジェクトもない。第2期
計画との違いも、はっきりしない。

 これで、先進国はもとより、日本を急速に追い上げて来ている中国や韓国な
どの新興国と競争できるのか。

 内閣府の世論調査では、国民の8割近くが「具体的目標」の設定が必要と回
答している。科学技術立国を実現するために、明確な目標を示すことが必要だ。

 国は、2000年度までの第1期計画で17兆円、第2期計画で21兆円と
いう巨額の予算を科学技術に投じてきた。

 政府は“成果”も喧伝(けんでん)している。日本人の論文発表数が増え、
米国に続き2位になった。「象牙(ぞうげ)の塔」と批判された大学も社会に
打って出て、ベンチャー企業を起こす例は1000社を超えた。

 ただ、額面通りに受け取る訳にはいかない。例えば、大学研究者が特許を出
願する数は増えたものの、収入は伸びていない。国内外の企業などから引き合
いが来る重要特許はほとんどない。

 現状についての厳しい評価なしでは、第3期計画は空洞化する。

 国立大学や国の研究機関には新築ビルが増えた。一部研究者に億単位の予算
がつき「研究費バブル」と皮肉られる。その一方で、研究費を獲得するための
書類作りが増え、肝心の研究時間は減っている。研究環境の整備も重要な課題
だ。

 国には、民間ができない、リスクの高い大型研究開発に挑む、という役割も
ある。だが、遺伝子解析技術のように、当初は日本が先行したが、世界の潮流
を国の担当者が理解できず、予算が細り、海外に完敗するといった例は多い。

 次代を担う人材の育成も心もとない。1期、2期計画では、若手研究者を増
やす施策を展開した。ところが、就職するポストが足りず、収入は不安定で社
会保険料を払えない、という例まである。

 何が課題で、何を目指すのか。総合科学技術会議は、科学技術立国への道筋
を明確に提示すべきだ。