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新首都圏ネットワーク

『読売新聞』2005年6月30日付

進む産学連携 費用対効果などに問題


 大学の知的成果を生かして経済活性化をはかる――。1998年以来、政府
の音頭取りで産学連携施策が本格的に進められてきた。成果を生む一方、問題
も見えてきた。(解説部・知野恵子)

 ◆国立大の意識改革も必要

 数字の上では、産学連携は「過去最高」を記録、順調に進んでいる。国立大
学でそれが著しい。文部科学省が22日に発表した集計によると、2004年
度は国立大と企業との共同研究が約9400件になり、219億円の研究費が、
企業から大学に入った。特許出願件数は大幅に増え、約4150件に達した。
経済産業省の調べでは、国立大発ベンチャーも約800社になった。

 だが、費用対効果などの問題も浮き彫りになってきた。

 例えば国立大の2004年度の特許料収入は、約4億1600万円。このう
ち約3億6000万円が、赤崎勇・名古屋大名誉教授の青色発光ダイオード関
連の収入だ。それ以外は、合わせても約5000万円に過ぎず、利益はまだ少
ない。

 特許は、出願さえすれば収入につながるわけではない。逆にお金がかかる。
2004年度から3年間は、国立大の特許費用は無料措置がなされている。し
かし本来は、出願などの費用がかかる。権利維持のお金も毎年払わねばならな
い。企業などが、お金を払って使ってくれないと、大学の出費がかさむだけだ。
しかし、国立大側にその意識は薄い。ある国立大教授は「特許を出せばすぐお
金が入ると思っている研究者が多い。市場価値を検討もせずに、何でも特許に
しようとする」と指摘する。

 「論文を書いていればいい」という研究者に意識改革を迫った効果はあるが、
出願件数だけでは、政府の掲げた目標には遠い。文科省も「出願件数での大学
順位づけを公表したが、特許料収入なども含めた総合的な順位づけに変えたい」
と話す。

 大学発ベンチャーも経営の難しさを抱え、本来業務の教育への悪影響も指摘
されている。

 国立大の「伝統的体質」の変革も重要課題にのぼっている。経産省の調査で
は「対応が一本化されておらず、人ごとに言うことが違う」など、大学への不
満が出ている。特に、国家公務員時代の“お上意識”のままの大学事務部門に
対する批判が強い。企業との交渉が満足にできなくて文科省にお伺いを立てて
みたり、「文科省の指導をあおいだ」として、相手方に強引に押しつけようと
するなどの非常識な“商法”も目立つ。文科省も「財務、会計などの事務部門
が国家公務員時代のひな型に固執し過ぎる」と問題視する。

 政府は、国立大の潜在能力に期待し、予算を投入してきたが、その精査も必
要だ。