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新首都圏ネットワーク

『朝日新聞』2005年6月29日付

 大学ブランド知的な味 品質にこだわり人気


 霜降りの神戸牛。とれたての新鮮なクロマグロ……。こんな高級食材を大学
の農学部や水産研究所が出荷し、「大学ブランド」をつけて売り出す動きが起
きている。元々は研究目的で育てられたが、学者がえさや環境に気を配り、品
質にこだわってきただけに、「普通よりもおいしい」などと、消費者には好評
だ。大学側には商品を通じて知名度アップにつなげたい、という思惑もあるよ
うだ。

  神戸大学ビーフ

 「神戸大学ビーフ」。どこか知的な響きを持つ但馬牛肉が4月末から、東京・
日本橋の三越本店の売り場に並んでいる。サーロインステーキ用の肉が100
グラム3150円からで、価格は他の高級牛肉とほぼ同じだ。

 牛を育てたのは、神戸大農学部付属食資源教育研究センター(兵庫県加西
市)。約20年前から育種改良に取り組み、肉質を競う地元の共励会では3年
連続入選するなど好成績を残してきた。

 大山憲二・同センター助手は「おいしさのポイントは脂身です」。風味のよ
い牛肉の脂のDNAを研究し、味が向上するような交配を試みてきた。さらに
遺伝で肉に「霜降り」をつくる工夫もしてきた。

 「一般の消費者に味を判定してほしい」というのが肉のブランド化に踏み切っ
た動機だ。国立大は昨年春の法人化以後、広く社会に活動をアピールする必要
に迫られている。

 3月に新築した牛舎で牛約40頭を飼い、年間16頭を出荷できる。大山助
手は「『神戸ビーフ』と似た名前で、覚えやすいのでは」と期待する。


  近畿大学マグロ

 大学発の高級食材としていち早く注目されたのは、近畿大水産研究所大島実
験場(和歌山県串本町)のクロマグロ。同研究所が2002年、世界で初めて
養殖に成功した。

 広いスペースで余裕を持って泳がせ、エサの魚も厳選しているため、肉が締
まっている。昨秋から週5〜6匹ずつ大阪、奈良などの百貨店に出荷。店頭で
は1、2日で売り切れる人気という。

 近大によると、以前から大学で養殖したマダイなども口コミで評判だったと
いう。2年前、養殖魚販売のために近大がつくった会社「アーマリン近大」が
シールをつけて販売を始めた。

 「社会につながる『実学』が近畿大の研究・教育のモットー。マグロはその
象徴のようなもの」と職員は胸を張る。


  同志社ワイン

 逆に大学の知名度に引っ張られて、商品がよく売れている例もある。

 丹波ワイン(京都府丹波町)は昨年11月に「同志社ワイン」を発売した。
ラベルに大学の建物の一つ「クラーク記念館」の絵を入れ、売り上げの1割は
奨学金として同志社に寄付する。

 これが見事にOB・OGの心をつかんだ。結婚式や校友会の集まりなどで引っ
張りだこだ。同社は当初、年千本程度の販売を見込んでいたが、発売から半年
ですでに約3千本が売れたという。

 社長の黒井衛さん(33)も、同志社大の卒業生。「昔から『同志社は結束
が固い』と聞いていたけれど、ここまでの反響は予想以上だった」と驚いてい
る。