トップへ戻る  以前の記事は、こちらの更新記事履歴
新首都圏ネットワーク

『読売新聞』2005年6月24日付

「女性研究者」の採用機会拡大目指す政府


 政府は次期男女共同参画基本計画で、新しい課題として「女性研究者の採用
機会拡大」を打ち出す。(科学部・滝田恭子)

 ◆数値目標設定や育休など整備急げ

 「研究責任者は『妊娠、育児で休まれたら戦力ダウン。男性を雇う方が安心』
と考えがちだ」。伊藤啓・東京大助教授(分子生物学)は、研究現場に根強く
残る男性優位の実態をこう憂える。

 「科学技術立国」という国策の陰で、有能な女性が育児などを理由に研究を
断念する現実。その改善を、政府が先月公表した専門調査会による中間整理で
示した。雇用機会均等や女性への暴力根絶と並び、来年度からの次期計画の重
要課題となる。

 改善すべきは、家庭は妻まかせという男性中心の勤務環境だ。最近のアンケー
ト調査によると、大学や研究機関の常勤職は週平均60時間働いている。国が
近年増やしてきた任期3年の研究職は、短期間で成果を出さねばならず、さら
に過酷だ。日本初の女性南極越冬隊員という経歴をもつ坂野井(さかのい)和
代・駒沢大講師も、公的研究所の任期職の間に出産した時は「夫が育児休業を
取って乗り切ったが、一時は引退も覚悟した」と話す。

 育児と両立できるよう、多様な働き方を認める施策が急がれる。特に、育休
を取れる仕組みは不可欠だ。育休は通常、勤続1年未満や、出産後2年以内に
退職する人には認められない。任期3年では、禁止されているに等しい。休業
分の任期を延長できれば救われる人もいるが、江尻省(みつむ)・前国立環境
研究所研究員の調査では、大半の研究機関は延長を認めていなかった。

 ごく一部の機関が認めている任期延長の拡大や、在宅、時間短縮といった勤
務形態の多様化、休業時の研究成果への評価を柔軟にするなど、対策を加速さ
せる必要がある。

 雇う側が女性を雇いやすくする施策も欠かせない。短期間で成果を上げねば
ならない研究プロジェクトでも戦力ダウンを恐れて敬遠されないよう、休業中
の研究作業を代行する人員の派遣、女性を活用すると優先配分される研究費の
創設など、様々な具体策を学会などが提案している。

 一方、数値目標の設定も、女性の進出を促進する効果が見込まれる。日本学
術会議は5年前、1%前後だった女性会員比率を10年間で10%にするとの
目標を設定し、現在は6・2%。国立大学協会も女性教員比率を2010年ま
でに20%にするとしている。女性教授が工学系で1・2%、理学系で3・7
%という現状の改善が期待される。

 生殖補助医療など急速に発展する科学技術は、男性とは異なる形で女性に影
響を及ぼす。女性の視点で研究を進める必要性は今後も高まるだろう。政府と
研究機関は、効果的な具体策を実施してほしい。