トップへ戻る  以前の記事は、こちらの更新記事履歴
新首都圏ネットワーク

『読売新聞』2005年6月22日付

大学に保育施設 続々

 自ら学ぶ親に大学が応え始めた。

 「近くにいるので安心。たまに様子を見に来ます」

 東京都練馬区に住むお茶の水女子大の大学院生、四元淳子さん(39)は、
朝10時過ぎ、文京区のキャンパスに着くと、一人息子の悠仁(はるひと)君
(1歳5か月)を、学内の保育施設「いずみナーサリー」に預け、研究室に向
かう。

 専攻は遺伝カウンセリング。長く勤めてきた骨髄移植推進財団では、病気の
遺伝を心配する人や先天性の異常に悩む人の相談に乗る仕事だったが、訪れる
人に情報提供しか出来なかった。大学院で学べば、学会が認定する心理士の資
格取得や、遺伝カウンセラーになる道も開ける。

 入学を決心した時、おなかには悠仁君がいた。両親や夫の支えもあって通学
し始めた直後、この保育施設の存在を知った。

 ナーサリーでは、幼稚園教諭免許を持つ6人が、6か月から2歳までの子を
預かる。預かるのは最大で1日8人までと密度が濃い。

 園庭を挟んでナーサリーの反対側には、130年近い伝統を持つ付属幼稚園
があり、子供が一緒に遊ぶ時間が設けられている。

 「幼稚園の子の、お兄ちゃんらしい振る舞いをまねするようになった」

 四元さんは、成長ぶりに満足げだ。



 保育施設が、付属幼稚園に間借りする形で出来たのは2年半前だった。昨年
の国立大学法人化を前に、共学化も含めた生き残り策が検討された結果だった。

 「女子大なのに、おむつ交換用のベッドさえ、ほとんどないことに気づいた」
(ナーサリー施設長の冨永典子教授)

 年齢的に出産する可能性の高い大学院生が約1100人まで増加し、需要が
確実に高まっていた。

 ナーサリーは今春、建物も独立して、国立大学法人が直接経営する初の保育
施設となった。今のところ、利用者は大学院生など5人だが、入学後に施設の
存在を知る学生も少なくないため、秋には、さらに利用者が増えそうだという。



 大学の保育施設は、別の役割も持っている。

 お茶の水女子大では、大学の幼稚園教諭の卵が、ナーサリーでも実習が出来
るようにする。幼稚園や小学校との連携の研究の場にもなる。将来的には地域
の子供も受け入れる方針だ。

 ナーサリー施設長の冨永教授は「国立大の付属幼稚園も、定員割れが少なく
ない。保育園と連携することで幼稚園も魅力的になる」ときっぱり言う。

 付属幼稚園長の牧野カツコ教授も、ナーサリーの意義を語る。

 「幼児教育は、保育園から幼稚園、幼稚園から小学校へとつなげることに意
味がある。必要な教育は3歳から始まるわけではない。それぞれの特徴を生か
しながら、新しい形の幼児教育を発信していきたい」

 保育施設の存在は、長い歴史を持つ幼稚園の将来にも変化を及ぼしそうだ。
(前田高敬)

 学内保育施設 教職員の子供を預かる施設として、1960〜70年代、職
員組合や学生の自主組織で作る例が多かった。津田塾大では27年の歴史を持
つ。最近では、留学生や社会人学生にも門戸を広げ、学生を引きつける目的で
大学自身が経営に乗り出す例が増加。昨年出来た早稲田大など私学勢に加え、
法人化した国立大でも来年、名古屋大や東北大が開設する。