トップへ戻る  以前の記事は、こちらの更新記事履歴
新首都圏ネットワーク

『コミュニティしんぶん』酒田版  2005年6月17日付

国立大・高専の独立行政法人化から1年
山大農学部・鶴高専 外部資金確保を推進
研究対象や地域との連携を模索


 国の直轄だった国立大学や国立高等専門学校が独立行政法人として生まれ変
わって一年が経った。国からの運営費交付金が減り、経営面では厳しさが増し
てきている中、鶴岡市内にある山形大学農学部と鶴岡工業高等専門学校では、
外部資金を得るためのプロジェクトを考えたり、地域と連携することで評価を
高めたりと、収入確保に向けた取り組みを本格化させている。(金井由香)

■山大 研究対象探る勉強会発足

 山形大学農学部の共同研究数は平成十五年度が十一件、法人化した同十六年
度は八件と減ったものの、受託研究数は十五年度が十五件、十六年度は二十六
件と一・七倍に増えた。しかし、最近は少額の研究が増え、総額は増えていな
い。

 こうした中、外部資金の獲得を目指して、農学部生物生産学科の教員数人が
今年四月から、「農学部複合プロジェクト研究推進勉強会」を開いている。

 月二回開き、毎回教員一人が研究内容を発表し、今年十月をめどに研究対象
になりそうな案件を冊子にまとめる。

 勉強会の世話役を務める飯田俊彰助教授は「隣の研究者の研究は知っていて
も、お互いの研究にどう生かせるのかまでは知らない。情報を交換する中から、
プロジェクト研究の芽が出てくることを期待している」と話す。

 中島勇喜農学部長は「農学部全体としても企画立案して、他大学や行政とど
う組むのかなどを調整する機関が必要だ。農学部に独自の戦略室を立ち上げ、
文部科学省が先駆的、独創的な研究に補助する大型資金の獲得に取り組みたい」
と今後の構想を語る。

 一方で、山形大学が昨年、東京都内のキャンパス・イノベーションセンター
内に設けた東京サテライトを、今年度から農学部でも活用して、力を入れてい
る在来作物や海岸林、コメの研究を首都圏で宣伝し、地域外からの資金も取り
込んでいくつもりだ。

■海外の大学と交流協定

 法人化で、大学が不採算の学部を切り捨てることも可能になった。山形市の
大学本部から遠く離れた農学部では危機感が強く、大学内や地域での存在感を、
あの手この手でアピールしている。

 協定の締結数が大学の評価につながることから、農学部では平成十五年三月
に、インドネシア・ガジャマダ大学農学部と学術交流協定を締結。以来、チリ
や中国、韓国など現在までに七大学・学部と協定を結び、教員や学生の交流を
進めている。

 今後も他大学との協定締結に力を入れていく方針で、六月二十六日には学術
交流協定を結んでいる韓国・忠北大学校農科大学と単位互換制を加えた協定に
調印する。

 また、農学部のある研究室では今秋、遠方から講師を招いて土日に開催して
きた大学院の集中講義を、「ウイークエンド講義」として一般市民に無料公開
する。大学院生だけが聴くのはもったいない、と企画した。

 農学部初の試みに、担当教員は「地域に開かれた大学をアピールするのはも
ちろん、社会人の質問を聞くことが学生にとっても勉強になる」と利点を挙げ
る。

 さらに、地域住民がキャンパス内に入りやすいようにと、七月に解体する北
棟の跡地に、来年度以降、緑地公園を設ける予定だ。

 また、独自に研究を進め、成果を地域に還元しようという動きもある。朝日
村上名川にある農学部附属演習林では六月下旬から、試験的にワサビの栽培を
始める。朝日村のような豪雪地帯ではワサビの栽培例が少ない。焼畑によるだ
だちゃ豆の栽培や、演習林内での牛の放牧も計画中で、森林を活用した取り組
みを強化する。

 農学部附属演習林長の小野寺弘道教授は「成功したら地元に成果を還元した
い」と話す。

■高専 共同研究で農業に着目

 全国五十五校の国立高等専門学校は、独立行政法人国立高等学校専門機構に
連なる教育機関となった。鶴岡工業高等専門学校の中嶋靖雄庶務課長は「専門
機構の限られた予算を優先的にもらうには努力目標を立て、それを達成するこ
とが必要。競争の時代が始まった」と話す。

 鶴岡高専では平成十六年度から地元企業や行政でつくる鶴岡高専技術振興会
を通じ、地域に役立つ研究テーマに対する受託研究という形で助成を受け始め
た。

 その成果もあって、受託研究数は十五年度の四件から十六年度は十七件と四
倍強に増えた。共同研究数も十五年度の一件から十六年度は三件に増えている。

 もともと地域との連携に積極的で、平成六年度に地域協力教育研究センター
(現地域共同テクノセンター)を設け、共同研究や技術相談を受け付けてきた。
法人化後は庄内の農業に着目。公開講座の講師に、県の研究機関や庄内の高等
教育機関の農業研究者を積極的に招き入れ、新たな研究の素材探しに力を入れ
ている。

 地域共同テクノセンター長の加藤康志郎教授は「これまで庄内の基幹産業で
ある農林業には目を向けてこなかったが、農林業の従事者は多い。工業と結び
付けた研究を進めたい」と話す。

 また、教育プログラムが世界水準にあることを認める日本技術者教育認定機
構のJABEE認定を、今秋にも取得する方針。

 教育プログラムは、四年制大学に相当する本科四〜五年と専攻科一〜二年の
教育内容を統合して作った。学習や教育目標を設定し、学生は世界共通の英語
能力試験「TOEIC」が必修。

 認定されれば社会的評価が高まり、学生は技術士補という国家資格が得られ
る。

■この4、5年で決まる運営費交付金額

 外部評価高めるため取組み盛ん

 国立大学や高専など全九十七法人に対し、法人化前の平成十五年度に国が配っ
た運営費交付金の総額は一兆四千五百十九億円。法人化後の十六年度は同一兆
三千百七十四億円で、千三百四十五億円減った。

 国立大学や高専機構の収入源は学生が納付する授業料と運営費交付金、研究
に対する補助金や共同研究費などの外部資金が三本柱だが、経営は運営費交付
金に頼っているのが実情。法人化に伴い、運営費交付金は専任教員の給与分を
除き、これから毎年一%ずつ減る。山形大学全体では約一億円ずつ減っていく
見通し。

 このため、同大学では今年度、授業料を一万五千円値上げしたほか、退官し
た教員の補充を見送り、節電などに努めた。しかし、運営費交付金の減額分を
補うまでには至っていない。

 各大学や高専機構は法人化によって、教育研究や運営に関する中期計画をそ
れぞれ策定し、国や第三者機関が毎年、実績を評価することになった。計画期
間は大学が昨年度から六年間、高専機構は同五年間で、それ以降の運営費交付
金は、この間の中期計画の実績の評価によって決まる。

 このため大学や高専では、外部評価を高めようと個性的な取り組みを打ち出
している。山形大学は、中期計画で地域に根ざした研究や産学官民連携、世界
の他大学との交流、外部資金の導入推進などをうたった。鶴岡高専では、教育
の質の向上や地域共同テクノセンターの充実などを挙げている。

 山形大学の中島勇喜農学部長は「外部から評価されることで、教職員も積極
的になってきた」と話す。