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新首都圏ネットワーク

 

『読売新聞』2005614日付

 

[こだわりワーク事情]国立大 生き残りへ 挑戦 就職対策、産学連携続く模索

独立行政法人化から1年

 

 

 国立大学は私大に比べ、大学間の競争意識が薄く、学生の就職支援などにも

あまり力を入れない――そんな批判を覆し、就職対策や地元企業などとの産学

連携の強化を図ろうと張り切る国立大が増えている。独立行政法人化から1年

が経過し、生き残りに向けて、存在感を学校の内外にアピールし始めた各地の

国立大の挑戦を紹介する。

 

「地の不利」カバー

 

 茨城大は、学生の就職活動の参考にしてもらう狙いで、ほぼ毎月1回のペー

スで「卒業生50人と就職の話をする会」を催している。学生は自由に参加で

きる。4月25日に行われた会には、卒業生で元Jリーガーの真中幹夫さんが

参加、学生約30人と学生生活や就職について約2時間、語り合った。

 

 この会は、学内の就職支援センターが企画しているが、もともとは大学教員

有志らの呼びかけで始まったという。その発起人の1人の鈴木敦・人文学部助

教授は「もう、国立大というだけでは、就職もできない。うちは地の利ならぬ

『地の不利』がある。学生ものんびりしていて、何とかしなくてはと考えた」

と振り返る。

 

 これまでに延べ300人以上が参加、話をしたOB、OGも18人に上る。

会では内定を獲得するマニュアルのような話よりも「そもそも社会に出るとは、

働くとは」といった話が好まれるという。

 

私大と連携強化

 

 新潟大は、就職支援に関して私大と連携を強めている。昨年8月に東海大就

職部と群馬県嬬恋村で合同研修会を開いた。採用アナリストらを講師として呼

び、企業に求められる学生像や、企業へのアプローチ方法を学んだ。

 

 塚田千根(ちね)・就職課長は「地方大学は情報も少なく、就職に関するノ

ウハウもなかった。連携は刺激になる」と話す。新潟大が就職部を設置したの

は1999年のことだ。この際に、東海大が情報提供に協力的だったことなど

から、連携を強め、現在では、両大学を学生が行き来して、就職情報を閲覧し

たり、それぞれの就職活動の拠点にもできる仕組みを作っている。

 

 「とにかく、『就職支援に強い大学』であることを打ち出したい。夏には職

員がそろって、ローラー作戦で都内で大手企業を訪問する。企業説明会には地

元企業だけでなく、都内の企業も多く招いている」(塚田課長)と懸命な様子

を説明する。

 

人材を育てる

 

 高知大は4月から、防災に関する知識や技術を持つ「防災インストラクター」

の養成を始めた。防災関連の4科目を履修し、試験に合格すると認定される。

大学独自の資格だが、高知県内では南海地震に対する防災対策が課題になって

おり、「防災時には防災リーダーとしての活躍が期待できる」という。

 

 鹿児島大は昨年7月、食品の品質評価を行う人材育成コースを開いた。講座

は全6コースで、品質マネジメントシステムや、食品国際規格である「SQF」

について、食品業界で働く社会人向けに指導を行っている。食品表示について

の専門家養成コースなどもあり、延べ54人が受講している。

 

コラボ産学官

 

 東京・江戸川区に「コラボ産学官」という組織がある。地元にある朝日信用

金庫が割安料金で提供するビルのフロアに、室蘭工業大や大分大などの事務所

がずらりと並ぶ。大学で抱える技術を、地元企業だけでなく、首都圏の企業に

活用してもらうため、活動拠点を都内に築いた。企業側にとっても、1度に多

くの大学とコンタクトが取れる利点がある。

 

 この組織の江原秀敏事務局長は「地方大には、『地元にいるだけで生き延び

られるのか』という強い危機感がある。大学も法人になれば、自ら情報収集し、

顧客を獲得する必要があるのは当然だ」と訴える。参加を希望する大学は、年

内には30を超える見込みだ。大学から情報提供を受ける会員企業も現在は1

30法人だが、今年中には250法人になるという。

 

 各大学は組織を企業への技術移転だけでなく、学校のPRの場としても活用

している。組織に参加する10大学は昨年10月、群馬大の呼びかけで合同の

学校説明会を開いた。模擬授業を開いたり、研究内容を説明したりと工夫を凝

らし、多くの高校生が訪れた。「単独では人も集まらないし、地方大に興味を

持ってもらう良い機会になった」(群馬大)としている。