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『文部科学通信』2005年6月13日号 No.125
教育ななめ読み 72 「SHALL WE DANCE?」 教育評論家 梨戸 茂史
日本映画のリメイクが流行。周防監督作品の「シャル・ウイ・ダンス?」が リチャード・ギア主演でハリウッド映画として作られた。ほとんど同じストー リーだがひとつだけ日米の違いがある。アメリカでは「踊ること」が生活と密 着しおじさんが踊ってもサマになる。一方、日本では中年男のダンスには一種 の気恥ずかしさが伴いそんな心理的なアヤがハリウッド作品では出てこないそ うだ。そう言えば、かつて日米で主演?のゴジラのつくりが微妙に違っていた りしましたよね。
さて、大学発のベンチャーが一千社を超えた。経済産業省が二〇〇四年度末 で一、〇〇九社になり、二〇〇一年度に打ち上げた「大学発ベンチャー 一、〇〇〇社計画」が達成されたと発表。同省の「大学連携推進課」なるとこ ろは、経済効果も試算した。直接効果は、雇用に一万一千人、売上高が約一千 六〇〇億円。波及効果の方は雇用が二万一千人、売り上げが約三千億円。一社 当たりの売上高は研究開発段階で八、七〇〇万円、事業段階で二億一〇〇万円、 雇用は研究開発では八人、事業になると一二・五人だそうだ(どうやって真偽 のほどを検証するのだ?)。
これによると、大学で生まれた研究成果を基にしたベンチャー企業は六四五 社と全体の五九%にあたり、残りの約四割は共同研究の成果や技術移転などが きっかけだという。株式公開まで至った企業が一二社となり、さらに年内に公 開予定というのが一〇社あるとのこと。一方、すでに倒産や活動停止になった ものが二八社だ。全体で言うと一二(もしかすると二二)勝二八敗でちょっと 負けがこんでますかね。
大学別では東大がトップの六四社、次いで早大の六〇社、三位は大阪大学、 「株式会社」と称される阪大の六〇社。後は京大、東北大、筑波大と続いて、 七位に九工大が健闘。八位は私学の一方の雄慶応。九位と十位を九大、北大の 旧帝大が占める展開。おおむね規模が大きく工学系のある大学の勝ちですか。
このベンチャー企業だが、発祥はアメリカのシリコンバレー。半導体メーカー の競争が発端で顧客と密着した製品作りの世界。研究所など持たないベンチャー 企業が開発に行き詰まると大学を頼りにした。そして資本を提供するベンチャー キャピトルも集まる。大学院生が起業し指導の大学教授が顧問てなスタイル。 人間の流動性が高く、チャンスの国で「アメリカン・ドリーム」を標榜する文 化的背景もあるのだろう。もっとも、きっかけとなった「バイ・ドール法」の 評価が、効果は限定的で弊害が目立つとの見方もでてきたそうだ(日経新聞五 月二日付)からアメリカも分からない国だ。この法律がなくとも特許の増加が あっただろうとか、研究成果を公開して特許をとらないほうが研究が進む例も あると言われている。方向転換も早そうだ。
法人化も契機となって国立大学の目を外に向けさせた効果が右のベンチャー 企業の隆盛?でも、問題はいろいろある。大学人の弱みなんでしょうけど、技 術や知恵はあってもそれを売り込む人材とノウハウが不足。資金難も少なくな いようだ。公的支援など頼もうものなら、審査に時間がかかり、安全優先で九 九・九%成功が確実でないと金を投入してくれなかったりするとの話も聞いた。 これでは何のための「冒険=ベンチャー」なんでしょうか。
新薬の開発などで成功が見えた時に既存の製薬会社にその知識と技術を売っ て終わるのが日本型ベンチャーの当面の「成功パターン」。しかし、世の中甘 くないのが常。成功するのは一、五〇〇人に一人だとか、見込み違いや裏切り、 貸し渋りも少なくなかろう。甘い言葉に「踊って」失敗になりませんようお気 をつけください。 |