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新首都圏ネットワーク

『中国新聞』社説  2005年5月29日付

広島大と県警連携 安心づくり知恵絞れ


 広島県警と広島大が、安全で安心な地域づくりに向け、犯罪防止をテーマに
共同研究を始めた。総合的な防犯対策の構築を目指し、警察と大学が連携する
のは全国初の試みという。

 十の専門学部を擁する総合大学の強みを生かし、新たな発想と学際的な取り
組みで、「広島方式」の施策を生み出すのが狙いである。知の集積と現場の体
験から、中国地方や全国の自治体の参考にもなるモデルの誕生を望みたい。

 この連携事業は、二〇〇三年一月に施行された県の「減らそう犯罪」ひろし
ま安全なまちづくり推進条例に基づく県民総ぐるみ防犯運動の一環だ。子ども
を非行や犯罪被害から守る教育プログラムの開発など、四分野を設けて〇五年
の単年度事業で取り組む。

 多発する「振り込め詐欺」やピッキング被害情報は、どうすれば話題のテレ
ビコマーシャルのように強い印象を与えられるのか。同じ繰り返しのように見
える交通安全運動や防犯運動の効力は…。

 共同研究では、こうした新たな視点や一般市民の素朴な思いも盛り込み、地
域での実地調査やアンケート、公立高校での問題行動や規範意識の調査などを
予定。秋の中間報告に向け、本格的な検討を始める。常識にとらわれない率直
な意見の交換で、問題の本質に迫ってほしい。

 今回の連携には、警察、大学双方の危機意識も反映されている。

 県警は、大きな成果を挙げた暴走族対策について、「警察の取り締まりだけ
ではだめだった。県民や学校、行政などの幅広い連携や、離脱者支援の仕組み
などが相まってできた」と分析。防犯対策に地域の総合力が欠かせない、との
認識が深まった。

 「減らそう犯罪」運動では、県内の刑法犯の認知件数を、三年間で三割減ら
す数値目標をたてた。最終年の今年、目標達成のめどはたったが、県民運動の
成果を引き継ぐ仕組みづくりは未整備のままで、不安が残る。平成の大合併で
圏域が広がった市や町では、周辺地域で安全への目配りが希薄になりがちだ。

 一方、広島大も国立大学の法人化移行に伴い、より特色のある運営が求めら
れている。県警との窓口にもなった地域連携センター(安藤忠男センター長)
は昨年四月に設置され、大学の存在感を高める施策づくりに腐心する。

 同センターは、県警との連携を機に、大学独自でも、来年度から四年がかり
で「防災・防犯・平和のための地域セキュリティーネットの構築」研究を計画
している。

 戦後最悪とされるペースで犯罪が起き、安全神話がついえた日本の治安。警
察庁も関心を寄せる「広島方式」を軌道に乗せるためには、国外の成功例に学
ぶなど幅広い視野も求められる。