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新首都圏ネットワーク

『文部科学教育通信』2005年5月23日号 No.124

  教育ななめ読み 71 「あの騒ぎは一体?」
 教育評論家 梨戸 茂史

 ライブドアなるIT先端企業がラジオ放送の会社をフジテレビと取り合う大騒
ぎが決着した。と言ってもわずか二ヶ月の騒動。結局、フジテレビは念願のニッ
ポン放送を子会社にし、ライブドアには四〇〇億円が転がり込んだそうだ。イ
ンターネットとテレビの融合を目指したと言われたがそのあたりが不透明。

 唯一、今後に期待できるのは、ライブドアの社長が代表する若い世代に既存
の権威や古い体質の経営に対抗するチャレンジの精神が見えたことかもしれな
い。

 大騒ぎの末の結末のもうひとつは教員養成学部。文部科学省の教員養成系学
部の入学定員のあり方に関する調査研究協力者会議で、二〇年ほど続いてきた
抑制方針を撤廃することを決めたそうだ。第二次ベビーブーム対策で大量に採
用した団塊世代の教員の大幅な退職が見込まれ、早いところは来年四月から定
員増が始まるとか。一般に学部の新設や定員増は二〇〇一年の総合規制改革会
議の答申で事前規制を緩和し、事後チェックを強化すべきだとして原則自由化
されていた。ただし、医師・歯科医師・獣医師・教員・船舶職員の五つの分野
だけは抑制方針が残っていた。かつては二万人だった教員養成学部の定員は現
在約一万人まで減少。一方、公立の義務教育学校の退職者数は本年三月の約七、
七〇〇人から〇七年度には一万四、〇〇〇人と倍増、あげくに一四年後の二〇
一八年度には二万五、〇〇〇人となる。今年の三倍以上だ。都市人口の急増が
あった大都市圏ではもう教員不足が始まっている。

 ところで、数年前の法人化騒ぎの出発点を思い出してほしい。山形大学など
教員養成学部の統廃合で大揺れだった。文部科学省の「国立の教員養成系大学・
学部の在り方に関する懇談会」は最終報告で再編・統合を打ち出した。従来ま
での一都道府県一教員養成系学部という体制の変革を迫ったものだ。問題の根
底には少子化があるが、これらの学部から教員に就職する割合が減少し、かつ
ての八割近い数字から三割ほどに落ち込んできたことなどでこの入学定員を減
らしてきたのだ。一方で教員養成学部の中にいわゆる新課程と言われる教員を
目指さない学生の割合を増やした。ちなみにこの新課程の定員が教員養成と同
じか上回っている大学が一三にものぼっている。こんな流れからは学部の規模
を適正化し教員組織も充実するためにというお題目で「統合」話が出てくるの
は必然。だが、今回のような将来の教員の採用増を見越せば再編・統合の必要
はないではないかとの意見もあった。それに対して右の「報告」は、受験者と
採用数にギャップがあり就職できない教員希望者がまだ多いことや公務員の再
任用制度の導入があって一度辞めた教員の再採用も考えられること、採用する
側は各学校の年齢構成のバランスを考慮するから退職者増が即採用増につなが
らない、おまけに一時的に増加する退職者数も再度減少に転じることが予測さ
れるので「統廃合」は進めると言っていたのだ。

 統廃合は、大学を大きくする方向だ。大きいことのメリットもあろうが、小
さいことにも意義がある。学生数は少なくとも、静かな環境で人間的なふれあ
いの多いカレッジとして教員養成のような地域に密着した大学が日本中に点在
する意義は大きいのではないだろうか。それは地域の知的、文化的な核となり
うる道でもあるのだと思う。戦後の国立大学が「駅弁大学」と揶揄されながら
も今日まで地方の高等教育を担ってきた。その中心に教員養成学部があったこ
とは否めない。猫の目のような目先の改革や過激な統廃合ではなく将来を見据
えた政策って考えられないのでしょうか。