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『科学新聞』2005年5月13日付 厳しい日本のポスドク環境 不安定な雇用実態 文科省の調査で明らかに 日本の研究機関にポスドクは1万2,583人(平成16年度見込み)いるが、その 約半分は競争的研究資金や外部資金などで雇用されている。またポスドクのう ち、社会保険への加入率は50%未満であり、日々雇用であったり、週あたりの 勤務時間が常勤の4分の3に満たないなど、不安定な雇用状況にある日本のポ スドクの厳しい実態が明らかになった。文部科学省による初めての調査。ポス ドク問題は欧米でも顕在化しており、これにどう対処するのか、政府、大学等 の研究機関、指導的研究者の姿勢が問われている。 文部科学省は昨年12月、ポスドク等の雇用状況を調査するため、大学、研究 機関(民間含む)、1,759機関を対象に調査票を送付。博士課程学生、ポスドク、 その他の区分ごとに、競争的資金等による雇用者等の人数を調査。1,552機関 (有効回答率88.2%)から回答があった。文科省によると、回答がなかったの は短大、高専、公設試等であり、全体の状況はほぼ把握できたという。 ポスドクの人数は平成16年度見込みで1万2,583人。うち46%は競争的資金や その他外部資金で雇用されている。内訳としては、21世紀COEプログラム 1,463人、戦略的創造研究推進事業1,147人、外部資金1,077人、科学研究費補助 金920人、科学技術振興調整費487人などとなっている。また、競争的資金等以 外では、運営費交付金その他の財源2,807人、フェローシップや国費留学生千 784人、理研の基礎研究特別研究員など独法雇用型事業1,624人などで雇用・支 援されている。 個別機関の雇用・支援状況は明らかにされていないが、トップ機関が千人程 度ということや大型の競争的資金が雇用を引き上げていることなどから、ポス ドクは特定の機関に集中していると予想される。 女性割合は2割強。年齢が上がるほど、女性比率が高くなり40歳以上では約 3割に達している。研究者全体における女性比率は11.6%(総務省科学技術研 究調査)、大学の女性教員(本務者)比率は16.0%(学校基本調査)であるこ とから、ポスドクから常勤職に就く段階で男女間に大きな壁がありそうだ。 社会保険(厚生年金、健康保険の雇用者負担対象者)加入率は約五割。約 1,500人のポスドクを抱える独法は85%が保険加入。一方、最大のポスドクマー ケットである大学は、35%(2,159人)しか保険加入していない。フェローシッ プ等では雇用関係が成立しないため保険未加入となるが、それを加えても多く の若者が不安定な身分で研究を続けている実態が明らかになった。 一方、欧米でもポスドク問題は顕在化している。小林信一・JST社会技術 研究システム研究センター長の調査によると、欧米のポスドクの平均的な給与 水準は約3万ドルと低く、多くのポスドクは健康保険、退職金、児童手当、そ の他の手当を受けていないため、多くの人はポスドクとして就職する意欲を失っ てしまいがちだという。調査に参加したポスドク経験研究者も、もう少しで他 のキャリア・パスを選ぶところだったと話しているという。 ポスドクの主たる目的は、若い研究者の間に主体性と創造性を育てることだ が、他のポスドクはこの目的を遂げることは難しいという。アドバイザーから 十分なガイダンスを受けられなかったり、多のポスドクと協力することができ なかったり、プロジェクトに対する貢献が十分に認められなかったり、能力に 釣り合った責任が与えられなかったりする。ポスドクの期間を終えた人は、大 学教員または政府や産業界の研究者として成功するために必要な資質を身に付 けていないという。技術的には熟達し科学の特定の分野に精通しているかもし れないが、その一方で、科学の担い手として必要な創造性、主体性、順応性、 協調性、コミュニケーション能力を欠いている場合がある。 また、多くの学術機関は、ポスドクの雇用や待遇に関してほとんど基準を持っ ていない。年次業績評価、苦情処理制度、著述業指針の恩恵を受けることがほ とんどない。ガイダンス、指導、能力開発を受ける権利を持つことが明確にさ れているケースはまれだという。 日本国内で指摘されている問題の多くが欧米でも発生している。一人前の研 究者を育てるためには一定の“修行”は必要だろう。しかし、今のままでは優 秀な若者が研究者というキャリアを選ばなくなり、科学技術創造立国は絵に描 いた餅になる危険性がある。 |