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新首都圏ネットワーク


『朝日新聞』社説 2005年5月14日付

法人化1年 国立大の手足を縛るな


 政府の一部門だった国立大学がそろって自立度の高い法人に衣替えしてから、
1年余りが過ぎた。

 法人化のねらいは、自主性を重んじることで教育や研究に活気を取り戻し、
大学の個性を輝かすことにあった。そうした目標の実現に、どれだけ近づいた
のだろうか。

 たしかに運営のあり方は変わった。学長が指導力を発揮しやすくなっている。
新設の経営協議会には経営者や識者が加わり、学外の新風を吹き込んだ。

 特許などをもとにベンチャー企業を設立したり、会社や官庁から研究を受託
したりする動きが広がった。それぞれの地域が抱える課題の解決に取り組む大
学も相次いでいる。

 法人化にともなって各大学がまとめた中期目標や中期計画では、教育の重視
を挙げるところが多かった。「全学の教員で教養教育に取り組む」「厳格な成
績評価をする」「入学試験で独自性を打ち出す」といったものだ。

 だが、産業や地域との連携は以前からやってきている。教育の見直しも、私
立大学ではすでに取り組んでいるものが多い。法人化が変化を促したとはいえ、
今のところは手を付けやすい改革にとどまっている。

 当初、大きな期待が寄せられたのは、財政面での自立だった。自ら資産を運
用して生み出した資金を重点部門に配分する。独自の基金をつくって奨学金な
どに還元する。そうしたことができれば、大学を大きく変えることもできる。

 しかし、財政の自立についてはお寒い限りだ。日々の教育研究に使える国か
らの運営交付金は、毎年1%ずつ減らされる。使途は自由といわれても、裁量
の余地はないに等しい。

 土地などの資産は大学名義になったとはいえ、自由に使えない。借り入れも
移転や病院改築などに限られている。

 東大の小宮山宏学長は「手足を縛られて、さあ泳げと言われている」と語る。
これでは、いくら経営者らが運営に加わっても、知恵の出しようがない。国立
大学にもっと自由を認め、創意工夫を生かせるようにすべきだ。

 あわせて科学技術政策にも注文をつけたい。

 国立大学への交付金と私立大学への助成金をあわせた政府支出は、年間1兆
5千億円にとどまる。

 これに対して、今年度までの第2期科学技術基本計画では、生命科学など重
点分野を中心に、5年で20兆円以上が投じられる。一部が大学に回るとはい
え、大半は学外の研究機関などで使われる。

 大学には、学術研究とともに次代の研究者を育てる大切な役割がある。科学
技術に巨額の公費がつぎ込まれても、足元を支える大学が苦しくては「科学技
術創造立国」はおぼつかない。

 各大学のいっそうの自助努力は当然だが、大学の役割に十分な目配りをした
政策や予算の配分が欠かせない。