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新首都圏ネットワーク


『読売新聞』中部版 2005年5月14日付


教育ファイル 明日の人に
名古屋工業大学理事 品田 知章(しなだ ともあき)さん

知的財産売り出したい

 四月から法人化された国立大学。大学運営の最高決定機関として、学長をトッ
プに、学内外のメンバーからなる役員会が設置された。中部電力の元役員から
名古屋工業大の理事(学外)に招かれた品田さんは、「片手間ではとても無理」
と、任期途中だった会社社長を退任し、フルタイム出勤で多忙な日々を送って
いる。



 ――担当されている産学連携は大学と産業界の重要な橋渡し役ですね。

 大学教官の引き出しには、役立つ特許がごろごろしているとよく言われたも
のですが、実際にどう生かしていくのかが問われています。産業界は巨額を投
じ、他社と激しい競り合いの中で開発に力を注いでいます。ヒット商品を夢見
て、掃いて捨てるほどの特許を目の色を変えて出願している。大学は少ない予
算の中で、コツコツと成果を積み上げていますが、最近は競争的資金の導入で
研究レベルも上がっています。どう産業界と結びつけた共同研究に生かすかが
重要だと思います。

 ――知的財産をどう生かすかも大きな課題です。

 名工大では知的財産を扱う「テクノイノベーションセンター」を設置しまし
た。学内研究の成果を積極的に売り出したい。学内には中小企業を中心に、百
を超す企業との共同研究があり、期待しています。特許の出願費用については、
大学の限られた予算内では、自己負担は厳しいので、企業側と交渉中です。出
願方式も、出願から一年以内に本出願をする「仮出願方式」を国立大で初めて
採用しました。

 ――企業出身者の目から見て驚いたことは。

 法人化で求められた大変革の一つは財務。しかし、企業では当たり前の減価
償却という考え方もなく、帳簿は大福帳。どう合理的な予算計画書が作れるか、
頭の切り替えが急務です。

 ――どんな学生を育てたいですか。

 基礎力という素地があれば、何があっても必ずやりこなせるはずです。基礎
力をつけ、いざという時は専門書を片手に必死で勉強し、仕事に役立てられる
人材を育成したいですね。

 社長時代は自宅横に会社の送り迎えの車が止まったが、今は市バス通勤。
「黒塗りの車が止まらなくなり、防犯上も安心。健康的にもいい」と品田さん。
厳しい企業経営の中で、発電所計画や開発など四十五年間も走ってきた経験が、
潜在能力のある大学にどう活力を与えていくのか楽しみだ。

(八木 さゆり)

 品田 知章  長野市出身。東京大学工学部電気工学科卒。1959年中部
電力に入社。火力計画部課長、知多第二火力発電所長を経て研究企画部長、9
5年から常務取締役技術開発本部長。97年からテクノ中部社長に就任し、今
年3月に退任。67歳。