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新首都圏ネットワーク


『文部科学教育通信』2005年5月9日号 No.123

教育ななめ読み 70
 「のどもと過ぎて」  教育評論家 梨戸 茂史


 とうてい縁がないと思っていた花粉症に初めてなった。以前から春先にくしゃ
みが出て、軽い風邪だろうと思っていた。耳鼻科の医者には立派な花粉症と言
われた。昔、体内に回虫などの寄生虫を飼っていた免疫力でこの病気にはなら
ないとの某医学部教授の説を信じていたが、駆除してからの年数と今年の飛散
量の多さがわれわれの年齢層でも発症する原因なのか。

 それも月が変わって花粉がなくなればこのつらさも忘れるのだろう。のども
と過ぎればの類。

 国立大学の法人化の「のどもと」の一年が過ぎたところで、新聞に学長さん
の評価の記事が出ていた(三月二七日付け朝日新聞)。全体的には「評価する」
が「どちらともいえない」を大幅に下回っている。まだまだ学内的に混沌とし
ている現状を反映し評価のしようがないというところか。個別にみると、大学
改革が実現したかどうかについては、八九大学中の七四校で「手ごたえを感じ
ている」と回答。学外者の意見が反映される経営協議会に関しては大部分の八
四校が積極的に評価。肝心の予算では減少が多く四八校学長権限が強くなった
かどうかは、八〇校で肯定的な回答。まあ、経営協議会にしろ、学長権限にし
ろ学長=経営側からすれば味方の制度だし、リーダーシップという名の権限強
化だから肯定的なのは当たり前。

 反対に自由度が減ったのはお金の方。予算は基盤的経費で毎年一定の削減率
が「効率化係数」の名でかけられる。いかに節約するかの「自由」しかない。

 少しでも収入になると考えたかどうか知らないが、東大では赤門をくぐった
すぐ先の「コミュニケーションセンター」で東大ブランドの高級陶器から文具
まで販売中。その中で一番人気というのが戦前の発酵学の先生が採取保存して
いた黒麹菌で作った泡盛だそうだ。その点、農学系は売り物に困らない。神戸
大学が「神戸大ビーフ」を売り出すという話もあった。コンビニをキャンパス
に導入したり、「のどもと」過ぎてあの手この手の収入を考える時代になった。

 法人化で露呈したのが超過勤務手当の問題。滋賀医大で労働基準監督署から
残業代未払いで是正勧告を受けた。いままで、いかに公務員のサービス残業が
多かったかを物語る。他に広島大学など病院を抱えるところに超勤問題が発生
しているようだ。ちなみに滋賀医大ではこの残業代は一億円以上との噂もある。
そもそも大学の教職員の仕事に工場労働並みの勤務時間の管理方式を導入した
ところに無理があるのかもしれない。このあたり、調査も見込みもなく出発し
たツケだろう。

 財政問題でおかしかったのが信州大学。運営費交付金の減少で大学財政が苦
しくなったということで、学長以下教員出身の理事、副学長が給与の一部(学
長が五%、他三%)を返上、毎月あわせて約三〇万円ほどらしい。二〇〇五年
度の同大学の予算の減少額が約四億円だから学長たちの年間三六〇万円ほどが
繰り入れられても焼け石に水というか雀の涙。ここも職員の残業代の未払いが
あって問題になったことも背景にあるのかも。前代未聞だけれどなんだか同情
を買う話。

 積極的な変化は公立大にあった。法人化後の横浜市立大学の新学長にブルー
ス・ストロナク氏が就任。国公立を通じて初の外国人の学長だ。初めての非公
務員化のプラス面。新市立大学は国際都市の横浜にあり、その教育内容は国際
教養を標榜している。そのあたりを体現するにふさわしいとは言える。同学長
は日本での教育研究が一四年以上で奥様も日本の方だそうだから日本通でもあ
るのだろう。ただ、任期が一年と聞いたが、それって単なる「象徴」ですか?