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『熊本日日新聞』2005年5月6日付 熊本大 法人化から1年 経営効率化など課題山積み 昨年四月から国立大学法人となり、自らの責任での「経営」が求められるよ うになった熊本大(熊本市黒髪)。初年度は、経営のカギとなる外部資金の獲 得額は伸びたが、毎年課される経営効率化や二年後に迫る大学全入時代への対 応など課題も山積。“生き残り”をかけた取り組みは始まったばかりだ。 「法人化して常に経営を念頭に置かなければならなくなった」と崎元達郎学 長。その理由は、法人化でより自立した経営を求められるようになり、国から の交付金が毎年削減されるようになったからだ。熊本大の場合、付属病院が毎 年2%増収することを前提に交付金がカットされるなど、毎年四億円ずつ減る ことなった。 国からの交付金減を補うにはまず、大学の“企業努力”で獲得できる国の科 学研究費補助金(科研費)などの外部資金を増やすことだ。 科研費は独創的・先駆的な研究に国が助成する。熊本大は、法人化一年目の 二〇〇四年度から科研費の獲得額を伸ばすため、全教員約千人に科研費申請を 義務付けた。その結果、〇五年度の申請件数は千二百五件と前年度より四割近 く増加。うち三百九十一件が採択(内定)され、獲得額は前年度より約三億円 増の十四億五千万円となった。 また、特別教育研究経費として工学部の「ものづくり創造融合工学教育事業」 など四件が認められ、新たに約三億円の外部資金が加わった。 全国の国立大のうち、半数以上の大学の〇五年度予算が前年度より減少する 中、熊本大は外部資金の増加もあり三十五億円増(科研費含む)の四百六十六 億円と順調な滑り出しとなった。 だが、崎元学長は「経営効率化で課せられている付属病院の収入増を継続的 に達成していくことは難しい。高度な医療に取り組むことが使命である以上、 単純に病床稼働率アップや人件費削減といった対応はできない」と楽観視して いない。 また、法人化後はさまざまな面での評価が取り入れられた。各大学の世界的 な先駆的研究に助成する「二十一世紀COEプログラム」に対して初めて実施 された中間評価では、最も低い「D」評価を受けた大学の研究は国からの補助 金が70%減額となった。 熊本大の研究は最も高い「A」評価を受け、補助金は前年比45%増となっ たが、これからもより質の高い研究と成果が求められることになる。 こうしたことを背景に、熊本大は学内の教員に対する評価制度を〇四年度か ら試行的に始めたが、人文社会系学部の教員は「人文社会系の研究成果は短期 間では見えにくい。一律に成果を求めることには無理がある」と不満顔だ。学 部間のバランスをとりながら、教育研究全体を充実させることも課題の一つだ。 一方、大学全入時代への対応も急務。少子化の影響から、〇七年には全国の 大学の定員より志願者数が下回る事態となる。今春の熊本大の入学試験の競争 倍率は、前・後期とも平均で約二・五倍と前年度を下回った。 崎元学長は、大学は二極化の傾向にあるとの認識の上で、「当面は九州や関 西方面までをターゲットにして学生を獲得していきたい」という。熊本大の伝 統に新たな魅力を加えるともに、県内の他大学とコンソーシアム(共同体)を 設立して、共同で情報を発信していく方針だ。 大学間の競争が激しくなる中、崎元学長は「トップダウンだけではなく全教 職員が共通認識を持ち、大学としてまとまっていくことが必要だ」と力を込め る。(野田一春) |