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新首都圏ネットワーク


『東京新聞』2005年4月21日付

女性科学者を増やそう 家庭と両立できる環境づくりが急務


 学生や生徒の理科離れが進んでいる。ここ数年、教育・研究機関は理科系の
人材育成に力を入れているが、そのためには男性に比べてこの分野では圧倒的
に少ない女性をいかに増やしていくか、も課題となる。政府も女性科学者・技
術者を育てようと啓発に乗りだした。 (国保 良江)

 「女性科学者のロールモデルとして選ばれたのがうれしい」。今年三月に世
界五大陸から選ばれる二〇〇五年度「ロレアル −ユネスコ女性科学賞」を贈ら
れたアモルファス(非結晶物質)研究の第一人者として知られる物理学者・米
沢富美子さん(慶応大学名誉教授)は、受賞をこう振り返った。

 米沢さんの発言の背景には、女性科学者の少なさ、という問題が横たわって
いる。例えば、日本学術会議の会員は二百十人だが、二〇〇〇年に「十年後ま
でに女性会員を10%にする」という目標をたてて現在やっと十三人(6・2
%)に。しかも自然科学系は三人にすぎない。

 総務省の科学技術研究調査報告(〇四年)によれば、全国の大学や官民の研
究機関の自然科学系の女性研究者は六万八千五百人(全体の9・4%)だ。

 大学生については、ここ二十数年で理科系学部に進む女子学生の割合はほと
んど変わっていない。それでも土木、建築など工学系では、二十年前は1%だっ
たのが10%を占めるようになった。しかし、建設会社に就職する人はわずか
1%。現実の壁が立ちはだかる。

 米沢さんも「女性は出産・育児とキャリアを積む時期が重なる。中でも長期
間測定しなければならない実験系の女性は大変」と女性科学者を取り巻く環境
の厳しさを指摘する。

 昨年、男女共同参画学協会連絡会(東京都港区)が自然科学系の三十九の学
会に所属する研究者にアンケート調査を行った。技術者・研究者に女性が少な
い理由として、男女とも「家庭と仕事の両立が困難」をトップに挙げた。これ
を裏付けるように、七割近くの女性研究者は子どもがいない。

 官民の女性技術者でつくる「土木技術者女性の会」(本部・東京都港区、会
員百八十人)の須田久美子事務局長は、「土木技術者の仕事は男女にかかわり
なくできる仕事。しかし企業によっては女性はリスクになる、女性にできない
仕事があるとの理由で採用しないところもあるのが実態」と語る。

 同会では数年前から、後輩を育てようと就職パンフレットを作製、女性土木
技術者の活躍や暮らしぶりを女子学生に知らせたり、相談に乗ったりしている。

 ここへきて各学会も女性科学者の育成を積極的に考え始めている。今年に入っ
てから、日本原子力学会、日本化学会、日本物理学会、日本女性科学者の会な
どが、相次いで会議を開き、対応を検討している。今年中にまとまる男女共同
参画社会基本法の基本計画の改定で、新たに「科学技術」の分野も盛り込まれ
ることも決まっている。

 内閣府はビデオ「広がる未来!私が選ぶ」を制作した。女子高校生が医者や
生物学者ら五人の働く女性に話を聞き、夢をふくらませる内容だ。

 内閣府男女共同参画局の塩満典子調査課長は「研究活力を維持するには多様
な価値観の確保が大事だ。科学技術の発展のために、男性だけではなく、女性
もともに創造力を発揮し、能力や個性を伸ばすことが必要。女性が仕事と家庭
を両立できるような支援策が急務」と話している。