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新首都圏ネットワーク


『山陽新聞』2005年4月17日付

日曜インタビュー 香川大 木村好次学長

激変期の大学改革 「学生本位」の視点強化


 国立大法人化(二〇〇四年四月)と旧香川医科大との統合(〇三年十月)により、
生まれ変わった香川大が二年目の春を迎えた。国立大を国の直轄から切り離し、
運営に民間的手法を導入する史上最大の改革と同時に、岡山・広島・香川三県
の国立大では唯一、大学再編の荒波にさらされながら、改革のかじ取りを担っ
てきた木村好次学長に、新制香川大の歩みと展望を聞いた。

 ―法人化による変化をどう実感しているか。

 「経営感覚やコスト意識が醸成されてきた。予算でも、以前は『いくら認め
られたか』に終始していた感があるが、今は『予算を使って成果を出す』こと
を常に意識している。だが、まだ法人化の自由を生かしきれていない。一例が
非公務員となった教職員の給与体系。膨大な時間と労力を伴うため、公務員ベー
スのまま。将来的には成果主義の導入も必要だ」

 ―旧医科大との統合の効果は。

 「生命系分野が加わり、共同研究や教養教育の幅が広がった。付属病院は大
学の収入の大きな柱だが支出も多く、ほとんどの国立大で赤字。しかし香川大
病院の人件費を除いた経費率は34・9%と全国で最も低く、効率経営が行われて
いる。数年後には黒字転換できる自信がある」

 ―多彩な改革策を打ち出しているが、狙いは。

 「研究、教育を核に、学生支援や社会貢献を進める。昨年から、特色ある研
究テーマを募り、学長裁量経費八千万円を重点配分する制度を始めた。競争に
より、文系、理系全分野で研究の高度化を進める狙い。また〇四年度には知的
財産部門を新設し、七十件の特許申請があった。教員数からみれば非常に多い。
地元企業と連携し、研究成果を産業化していく」

 ―昨年十一月以降、付属病院汚職など事件が相次いだ。再発防止策は。

 「法令遵守のため、学外識者を招いた委員会を発足し、教職員の行動規範や
内部通報制度を設けた。こうした面の危機管理は大学の弱点だった。反省を進
歩につなげ信頼回復に努めたい」

 ―〇七年度にも大学全入時代が予想される。

 「国立大でもつぶれる可能性もある。特に地方大の危機感は強い。香川大は
新たに『学生中心の大学』をテーマに掲げた。以前の国立大は『入学させてや
る』という意識が強く、学生本位の視点が欠如していた。学生の最大のニーズ
である就職の支援を強化し、企業が求める能力が身に付くよう授業も改善する。
医学部を除き70%台にとどまっている進路確定率を100%にしたい」

 ―少子化とともに、道州制など地域の枠組みの変化に伴い、大学再編がさら
に加速することも考えられる。

 「四国の五国立大は、これまで国立大協を通してきた国への要望などを、場
合によっては四国独自で行うことを取り決めた。香川大は愛媛大と法科大学院
を連合方式で開設するなど、連携の土台づくりは進んでいる。これからは、常
に変化を意識し、どんなケースにでも柔軟に対応できるようシミュレーション
しておかなければならない。変化を『ありえない』として、考えから切り捨て
ることが最も危険だ」

 きむら・よしつぐ 東京大宇宙航空研究所教授、同生産技術研究所教授など
を経て、1997年、香川大工学部教授、2003年から現職。東京大大学院工学系研
究科博士課程修了。専門はメンテナンス工学。東京都出身。68歳。