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新首都圏ネットワーク


『朝日新聞』2005年4月17日付

国立大学法人化1年 「規制厳しいまま」「学長の責任重大」
佐々木毅・前東大学長に聞く


 全国89の国立大学が法人化されて1年。民間の経営手法を導入したり、学
長権限を強化したり、改革が進んでいる。先月末まで国立大学協会長だった佐々
木毅・前東大学長に、課題について聞いた。(柏木友紀)

 ■3点セット

 法人化による衝撃の大きさは大学によって異なるが、共通するのは「規制は
厳しいまま、金は減らす」という「縛り」の問題。内部的努力だけで生み出せ
る資源は限られており、外向きの自由度を確保する必要がある。

 例えば、出資や土地活用に関する規制だ。空いた土地を学生寮などに転用す
るにも、大学の施設設備費は減額されており、民間資金の導入が不可欠。だが、
大学の出資会社による運営や、寮費の自由な設定などは認められていない。

 産学連携などでせっかく外部資金を獲得しても、老朽化や過密化が著しい施
設では十分生かしきれない。改革は、人、金、スペースの3点セットなしには
あり得ない。

 ■学長の責任

 かつてとは、学長の責任の大きさが違ってきた。文部科学省から一方的に方
針を伺うのではなく、学長側からの現場の意見をもとに、共に考えるようになっ
た。

 学内運営においても、学長裁量で資金や、ポストを配分する方向に変わりつ
つある。各部局は学内での説明責任が問われるようになった。学長室周辺から、
大学改革の歯車が動き始めた。これを外向きの自由度と結びつけることだ。

 ■入試改革

 ただ、動き出した歯車と学生の間には、いまだ距離がある。大学にはユー
ザー、すなわち学生の利益を最大化する義務がある。法人化を機に、いかに学
生にも改革に参加してもらうか。入試改革に行き着くだろう。

 前期・後期日程を分けている現行の入試方式にしても、京大のように後期を
廃止する所がある一方で、多様な学生を採るために後期を活用する大学や、日
程全体を私立大と同時期に改めたいなどの意見もあろう。

 大学入試センター試験にしても、意味付けが不明確との指摘があり、離脱す
る所が出ないとも限らない。

 制度上、各大学は独立の法人となり、自由裁量権が認められた。入試だけ
「これまで通り一体で」というわけにいくかどうか。国大協が出来ることを十
分に見極める必要がある。

 国立大学の法人化を機に、高等教育全体の将来像を考えなければならない。

 大学は教育界で最後のアウトプット。先進国の中でも極めて少ない高等教育
予算を増額し、家計負担を減らして全体の底上げを図るべきだ。