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新首都圏ネットワーク


『陸奥新報』2005年4月11日付

この人に聞く・法人化1年が過ぎた弘前大学
弘前大学長 遠藤正彦さん


 国立大学の法人化から一年が経過した。制度や財政の仕組みが変わり、各大
学は個性を伸ばせる一方、互いが競い合う激動の時代に突入した。しかし、法
人化で大学がどう変わったかは直ちには見えにくいのも事実。弘前大学も法人
化で、教官らの意識改革も含めさまざまな改革に取り組んでいる。弘大はどう
変わったのか。学長の遠藤正彦さんに聞いた。

  ◇  ◇

 ―法人化から一年が経過したが。

 国立大学の法人化最大の狙いは、大学のありようとしての教官、職員の意識
改革。それが十分かと言えばそうではないと言わざるを得ない。

 ひしひしと感じるのは財政問題。昔は国からお金が出ていたが、今は一切出
ない。大学の運営は授業料などの自己資金と運営費交付金、外部資金によるが、
外部資金はほとんど入って来ない。本学だけではないが、状況は厳しい。

 ―法人化で弘大が変わった点は。

 まずは就職率が約80%に上がった。学生らの努力もあるが、クラス担任制
など、学内におけるいろいろな「仕掛け」が就職率向上に結び付いたといえる。

 また個別的な研究レベルが上がっている。論文や卒論が国際誌に掲載される
などして学長表彰の申請が上がってくるが、それを見ていると全体のレベルが
上がっていると感じる。学生の課外活動も質が向上している。

 ―弘大には地域貢献、地域との連携という面で期待が高いが。

 地域との連携は悩みの一つ。地域共同研究センターができて十年になるが、
セミナーやシンポジウム、展示をしたといっても相応のものが大学に返ってき
ていない。地域財政、産業基盤のぜい弱さからだろう。

 今後は、例えば大学で大型機器を購入して、管理は大学でする。機械、専門
家、オペレーターが一体になったものを開放していきたい。もちろん受益者負
担は必要になるが。

 それから、法人化前はある程度入札に「制限」があった。それが最近は地元
に仕事が落ちるような「システム」に変わってきている。入札条件が変わった
というのではなく、県内企業が共同体をつくることにより入札に参加できるよ
うになった。土木関係に相当入っているし、医療関係の参加も増えていくだろ
うと考えている。

 ―地元にビジネスチャンスが広がっているということか。

 弘大の昨年度の予算は約三百億円。付属病院の予算も病院収入から考え百二
十四億円ぐらい。これまでは学生の生活費などが地元に落ちるだけだった。今
後は公平公正な入札があり、全部が全部ではないが、三百億円をいかに地元に
落とすか、というのが私たちの使命にもなる。

 □えんどう・まさひこ□ 仙台市出身。弘前大学医学部卒業。東北大学大学
院医学研究科生理系修了。東北大学医学部講師、弘前大学医学部助教授を経て
1981年に同教授。96年同医学部長、2002年2月から同大学長。04年4月から国
立大学法人弘前大学長。68歳。

 ◆メモ◆  国立大学は制度上、国の行政機関の内部組織として位置付けられ
てきた。さまざまな規制や国による管理が避けられなかったが、法人化により
大学に法人格と経営の権限が与えられた。自らの裁量で多くを決定できるよう
になった一方、運営にも責任を持つ。弘前大学は就職支援センターの開設など
で就職率向上を図り、大学が「品質保証」した法人化初の卒業生を3月、社会
に送り出した。