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新首都圏ネットワーク


『朝日新聞』社説 2005年4月2日付

学費値上げ 大学の門を狭めるな


 ほとんどの国立大学で授業料が引き上げられた。合格の喜びに水をさされた
受験生や保護者も多いだろう。

 法人化に伴って、国立大学は独自に授業料を決められるようになった。文部
科学省が示す「標準額」より10%高い水準までという制限はあるが、それぞ
れの判断に任された。

 今回の一斉値上げは、その標準額が年額1万5千円上がって53万5800
円になったのがきっかけだ。私立大学との学費の違いを是正するというのが、
文科省が掲げる理由だ。

 30年前、国立大の授業料は年額3万6千円で、私立大の5分の1だった。
しかし、その後はほぼ1年おきに値上げされている。入学金を合わせた初年度
の納付金は80万円を超えており、私立大の文系と大差はない。大学院では逆
に私立が安いところさえある。

 かつての国立大は、授業料の安さゆえに、貧しくても向学心のある生徒に進
学の機会を与えていた。それが社会の格差を縮め、活力をもたらした面は大き
い。

 上げ続ければ、経済力のある家庭の子どもばかりになってしまう。しかも、
国立大が高くなると、私立大も引き上げやすくなる。高額の授業料で、若者の
希望が摘み取られないか心配だ。

 大学教育の費用を公費と家計でどう分担するのか。どの国でも頭の痛い問題
となっている。

 英国では今年1月、大学授業料の上限を3倍に上げた。しかし、所得の低い
家庭への配慮から、学生の40%近くが授業料を免除されている。また、社会
に出てから後払いする制度も導入する。

 米国では、政府が奨学金に力を入れてきた。州の制度なども含めると、何ら
かの奨学金を受けている学生は70%を超える。返す必要のない給付金もある。
さらに民間の寄付でつくられた大学基金も学生を支える。

 日本の国立大学で授業料が免除される学生は、ほんの数%に過ぎない。日本
学生支援機構の奨学金は貸与だけのうえ、金額にしても奨学生の数にしても十
分というにはほど遠い。

 大学教育は、科学技術など国の競争力の基礎だ。若者に少しでも門戸を広げ
ようとする欧米の努力を見習いたい。

 今度の値上げには、もうひとつの問題が潜んでいる。

 国立大は独自に授業料を決められ、据え置きもできたのに、4年制の大学・
短大85校のうち82校が標準額と同じ値上げ幅だった。授業料を上げないと、
その分だけ予算に穴があくからだ。

 国立大の運営費の多くは、国からの交付金で賄われているが、その国はあら
かじめ標準額の値上げ分を交付金から差し引く。授業料を値上げするほかない
仕組みになっている。

 財政面の独立などないに等しい。法人化がめざした大学の自主運営は看板倒
れではないか。こうした硬直した制度も改めるべきだ。