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新首都圏ネットワーク


       授業料値上げに関する文部科学省令の公布にあたって


        2005年4月1日 国立大学法人法反対首都圏ネットワーク事務局

 3月31日、文部科学省令第20号「国立大学等の授業料その他の費用に関する省
令の一部を改正する省令」が官報に掲載された(『官報』平成17年3月31日付、
号外第72号、23頁、掲載後一週間のみ次のアドレスで閲覧可)。
http://kanpou.npb.go.jp/20050331/20050331g00072/20050331g000720023f.html

 これによって、国立大学等の授業料標準額は、本日より引き上げられること
になる。本事務局は、昨年12月以来政府予算案の分析を行い、「予算・授業料
情報」を発行(39号で終刊)するとともに、1月21日には「通常国会開会に当たっ
ての声明」http://www.shutoken-net.jp/050122_1jimukyoku.htmlを発表し、授
業料値上げが運営費交付金の第三の逓減方式として導入されたものであること
を指摘してきた。それにもかかわらず、授業料標準額の引き上げが強行された
ことに怒りを禁じえない。

 しかも、従来にない、3月31日省令改定、4月1日値上げというスケジュールの
異常性についても注意を喚起しておきたい。つまり、この授業料値上げは、手
続き上も重大な問題をはらんでいるのである。それは、(1)文科省の概算要求に
盛り込まれていなかったにもかかわらず、12月の政府原案で突如出現したこと、
(2)国会における2005年度予算審議を待たずに、文科省から標準額改定の通知が
各大学になされたこと、(3)受験生・合格者は、各大学の授業料が未決定の状態
のまま受験し、入学手続きを取らざるをえなかったこと、である。

 授業料値上げの問題は、端的に言えば、財務省および文科省が、国立大学法
人に対する運営費交付金を削減するために学生を犠牲にした、ということであ
る。その意味で、まずもって政府・与党の責任は極めて重いと言わざるをえな
い。国会審議の過程で明らかになったのは、第一に政府・与党が国立大学の授
業料の水準がいかなるものであるべきかという根本的な問題に全く触れること
なく、いわばルーティン・ワークとして授業料値上げに走ったことである。こ
れは政府・与党が、行政的措置を超えた「高等教育政策」をほとんど持ち合わ
せていないことを示している。第二に明らかとなったのは、授業料値上げの理
由として、(1)私立大学との格差是正、(2) 受益者負担の二つがこれも決まり文
句のように繰り返されたことである。「格差」とはどのように「是正」される
べきなのか、また「格差」は「是正」されるべきなのかといった議論は殆ど行
われなかった。また、「受益者負担論」は公益的な高等教育を学生個人の物質
的利益に帰着させる点で、教育の本質を毀損するものである。次のような声に
応えるのは、政府・与党の責任である。「国立大の存在してきた意義を思うと、
国立大の授業料はもっと低額であるべきだった。国は、国立と私立の格差を是
正するため、国立の授業料をほぼ二年ごとに上げてきたが、国立は本来もっと
安い授業料にすべきであったと考える」(『陸奥新報』社説3月18日)。

 他方、国立大学法人の側が負うべき責任もまた大きい。佐々木毅会長をはじ
めとする国大協幹部は、たしかに当初は今回の値上げ措置の異常性に驚愕し、
文部科学省に対して再考を要請する文書を提出した(2004年12月8日、「国立大
学法人予算の充実について」、
http://www.kokudaikyo.gr.jp/active/txt5/yosan161208.pdf)。しかし、その
後は、いまだ事態が流動的な段階であるにもかかわらず、早々と政府の決定を
追認する道を選択してしまったのである。それは、国大協が国立大学法人の集
合体として負うべき本来の公共的な責任を放棄し、文科省や財務省との密室の
駆け引きに終始したことを意味する。これによって各国立大学法人が連帯して
値上げ措置に対抗する可能性は大きく損なわれた。

 にもかかわらず、結果として、各国立大学法人の対応はある程度分かれた。
ここで指摘しておきたいのは、学生に対して各法人が行った授業料値上げにつ
いての説明の問題性である。数多くの報道によって明らかとなったのは、多く
の大学は運営費交付金の削減という現実を前にして「総合的に勘案」した結果、
「苦渋の決断」として授業料の値上げを行ったという説明を判で捺したように
繰り返す姿であった。しかし、こうした説明は、本事務局に寄せられた以下の
ような素朴な疑問を前にすれば、到底学生の同意を得ることはできないであろ
う。

一、授業料値上げに関する情報公開が行われていない。
○佐賀大は値上げせず、愛媛大は9600円だけ値上げをする。なぜ大多数の大学
は1万5千円という標準額通りの値上げを行うのか、財政上の問題というならば、
財務諸表の公開など、具体的に説明していただきたい。
○小樽商大では、学生への周知期間がなかったので前期分の授業料を据え置い
たといっているが、他の大学はなぜ周知期間なしに値上げができるのか。
○いくつかの大学では大学院博士課程の授業料は据え置かれる。その場合にも、
修士課程や学部学生の据え置きができない理由を明らかにしてほしい。

二、学生にたいする値上げの代替措置が取られていない。
大学によっては、以下のような制度を導入するというが、なぜ大多数の大学で
は値上げ分のサービスが行われないのか。
○成績優秀者の学費全学免除(山口大)
○奨学融資制度(島根大、利子は大学負担)
○学生らが決める予算枠1億円(名大)

三、信州大では、「学生と財政の厳しさを分かち合うため」学長・理事が給与
の一部を返上するというが、なぜ他の大学では給与の返上が行われないのか。

 各大学は2004年度の収支および2005年度予算案を公開し、授業料の負担者で
ある学生に対して意見を陳述する場を保証するとともに、学生への還元策を提
示する必要があると言わねばならない。もとより、授業料値上げは政府・与党
によって強いられたものである。しかし、各国立大学法人も、国大協や各地方
の学長声明にもかかわらず、値上げを「甘受」することになった責任を負うべ
きであろう。『東京新聞』の社説(3月21日)も、「ここではっきりさせておかな
ければならないのは、民間企業と同じように収支バランスの面から授業料を値
上げするのなら、財務内容を明らかにし値上げの必要性を示すべきである、と
いうことだ」と述べている。

 この間、いくつかのマスコミで授業料値上げの問題が取り上げられた。それ
は意見広告などの大きな成果である。また、意見広告の会や本事務局の働きか
けもあって、野党議員による質問が行われ、問題の本質が明らかとなった。こ
こに、ご協力いただいた関係各位に深く感謝したい。同時に、授業料値上げの
問題は、運営費交付金の問題であり、それは国立大学法人制度自体の問題であ
ることを指摘しておきたい。私たちは、法人化一年後の国立大学法人の抱える
具体的な問題点や国立大学法人制度の本質的欠陥を剔抉し、引き続き国会等に
対して要請を継続する所存である。また、2006年度の予算については、各大学
の給与(人件費)の問題や、授業料値上げの翌年に「慣行」によって入学金を引
き上げるといった問題が山積している。今国会の後半には、この問題を含めて
集中的な議論を行うことを予め提起しておきたい。大学人をはじめ多くの方々
のご協力をお願いする次第である。