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『内外教育』2005年3月25日付 《大学はサービス業か?》 帝京科学大学顧問 瀧澤博三 「大学はサービス業である」という言い方が、ひところ大学のトップの人た ちの間ではやっていたように思う。学生の視点に立って大学教育を見直さなけ ればならないと教職員に説き、大学改革の推進にリーダーシップを発揮しよう とするとき、こういう言い方は端的で分かりよい表現である。とかく権威主義 的だった国立大学の学長がこういう言葉を使えば、それはかなり大胆でインパ クトも大きかったに違いない。学長の論説などでも何度か拝見した覚えがある。 それがこのところとんと聞かれなくなった。 大学の学生顧客主義がこれだけ普遍化したからには、(少なくとも表面上は) いまさらキャッチフレーズとしての効き目が少なくなったからかもしれない。 しかしそれだけではなく、本当の理由は別にあるのだと思う。もともと大字教 育はサービス業と呼ぶべきものではないからである。 確かに大学教育もサービス業としての側面がある。しかしそれは業務の形態 の話であって本質の話ではない。大学教育の目標は顧客満足ではなく、その大 学の使命・目的を達成することである。教育の内容には、学生の意向をくみ取 りつつも教育のプロフェッショナル集団である教員組織が責任を持つ。学生は 教員の専門性に信頼してその教育サービスを受けるのであって、顧客満足に偏っ た教育は一時的に人気を得ることはできても、いずれ学生の信頼を失うに違い ない。 大学の教育も「価値の交換」の形を取るが、目標は大学の使命・目的にあっ て、行動の原理は「経済」ではない。近ごろ大学教育を経済活動としてのサー ビス業と同視して、大学の運営にも市場の判断と選択を重視すべきだとする言 説が飛び交っている。大学はサービス業だとする言い方は、こういう物事の一 面しか見ない市場原理主義に追い風を送り、株式会社の大学全面参入にも道を 開くことになりかねない。そんな危険性を大学人が感ずるようになったのかも しれない。言葉は魔物だ。 |