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新首都圏ネットワーク


『朝日新聞』三重版 2005年3月30日付

世界に通じる人材育成 国立大法人化1年

三重大学長 豊田長康さん(54)


 −国立大学の法人化からまもなく1年。改めて、どんな1年でしたか

 法人化1年目は、予算や定員削減のせめぎ合いの中、「攻める」基盤をつくっ
た年になりました。昨夏は冷房を切ったり、ノーネクタイ勤務にしたりして、
一般管理費を10%切り詰めもした。そうすることで、9千万円ほどの学長裁
量経費ができた。05年度はこれらを、大学の戦略に有効活用したいですね。

 −三重大学が目指す、その戦略とは

 法人化で、競争の原理がどんどん持ち込まれている。博士課程の定員割れや
研究費の削減といった点での苦戦は、三重大も含め地方大学全般に言えること。
ぐずぐずしていると大学間の格差は広がり、負け組になる。

 地方大学として競争に勝つための戦略は、地域のニーズに応えることです。
地域の中小企業などは世界レベルを求めており、地方でありながら国際競争が
求められる。総合力でなく、選択と集中。つまり、世界へ誇れる独自性をもち、
国際的に活躍できる人材を育てることで勝負する。地域再生にもつながる重要
な役割と考えます。

  □   □


 −この1年を通し、どう地域と連携しましたか

 03〜04年度にかけ、科学技術研究費や企業からの資金提供は2億円ほど
増え、共同研究の数も161から178へ伸びました。共同研究は03年度で
も、全国立大学法人の中で13番目の多さです。

 連携には県が積極的。医療、健康、福祉産業の創出を目指す「メディカルバ
レー構想」や、薬の研究開発から製品化までを地域で担う「治験ネットワーク」
など様々な分野で協力しています。

 地域の支援を受けながら、地域を支援する拠点をつくることで、大学単独で
は難しいことも可能になる。市町村との友好協定締結も進めていますし、こう
した取り組みで研究を活性化させ、地域還元につなげたい。

 −法人化で学内の取り組みに変化はありましたか

 国立大学に「戦略」とか「経営」という言葉はなかった。各学部・教員の独
立性が強く、大学組織として戦略を持って行動するのも難しかった。

 法人化により、学長の権限が強まったからこそ、執行部と各学部間の意思疎
通を図ることに力を入れた。学部の戦略や構想を、各学部長に発表してもらう
ワーキングショップを初めて開き、大学全体の戦略と、学部の戦略の共有に努
めました。

 今後は職員、学生とも積極的に懇談したい。公開でできるといい。将来的に
は、大学の全構成員が、目標設定から実行、評価、見直しまで行うPDCAシ
ステムを導入できればと考えています。

  □   □


 −学生獲得に向けたアピールは

 経団連のアンケートでは、社会・企業の求める人材として(1)志と心(2)
行動力(3)知力−の三つが挙げられていますが、これまで大学で、そうした
力を身につけられたでしょうか。今後は、講義による基礎学力だけでなく、感
じる、考える、生きる力をつける教育に力を入れます。

 医学部では、チューター制度を使った教育を94年度から実施しています。
チューター役の教員は課題を出し、軌道修正するが、答えは教えない。学生が
考え、議論し、解決方法を導き出す自己学習です。これを大学全体に広げ、自
主的に問題を解決できる人を育成する。

 そして重要なのが広報戦略。新たな広報誌を発行しましたが、私自身が高校
へ出向き、積極的にアピールすることも考えています。


■■■■■04年度の三重大の主な動き■■■■■


4月  国立大学法人三重大学として発足。医学部教授の豊田さんが
     全国最年少(当時)の国公立大学長に就任 
6月  ベンチャー志望者に拠点提供と自立支援を行う「キャンパス
     ・インキュベータ」を設立
7月  文部科学省の「特色ある大学教育支援プログラム」に採択さ
     れる。北勢地区での産学連携を推進する「四日市フロント」
     が活動開始
9月  地域貢献を目指す大学発シンクタンク「地域開発研究機構」
     を設立
11月 和歌山大学と連携協定を締結              
2月  県内の高校との連携推進を目的に、県高等学校校長協会との
     連絡協議会を開催
3月  東南海・南海地震シンポジウムを主催