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新首都圏ネットワーク


『朝日新聞』2005年3月27日付

予算減だが改革「手応え」  法人化1年 全国89の国立大学長にきく


 ◆ 経営協議会を評価84校 学長権限「強まった」80校

 法人化に伴い国立大学の学内運営や財政面に変革の波が寄せている。朝日新
聞社が全国89の国立大学長に実施したアンケートでは、05年度予算額が前
年度より減った大学が48校と半数以上に及び、厳しい財政運営を迫られた。
しかし、ほとんどの学長が民間の手法を取り入れる新しい経営方式を評価、学
長権限も増大したとして、改革への手応えを感じていた。(柏木友紀)

 予算は、文部科学省を通じて配分される運営費交付金と、授業料などの自己
収入の二つに大別される。行財政改革の一環として、運営費交付金は毎年1%
ずつ減額され、その分は各大学で効率化や自己収入増加に努めることとなった。

 アンケートでは、89校のうち48校で前年度より予算額が減少していた=
円グラフ右(予算額 増加した40校、減少した48、無回答1)。付属病院
への交付金に一律かけられる2%の減額分と合わせ、運営費交付金の減額分が
響いていた。

 新たに、民間の経営者や外部識者らをメンバーに設置された経営協議会方式
は、「内向きの議論しかしてこなかった大学にとって、外部委員の発言は非常
に新鮮で、外圧となっていい方向に機能している」(茨城大)など84校が評
価した。

 学長権限については、9割にあたる80校が強まったと感じていた。「『政
策的配分経費』を設け、学長の意向で執行されるようになった」(島根大)、
「人件費管理、組織改革などリーダーシップが発揮できる」(静岡大)などと
答えていた。

 では、法人化後、自主的な「大学改革」は実現へ向けて前進したのか。「手
応えを感じている」としたのは74校で=円グラフ左(大学の改革 手応えを
感じている74校、現状維持5、後退した気がする1、どちらともいえない7、
未記入1、無回答1)、増大した権限を元に、学長が自ら独自性を発揮してい
こうとする強い意気込みが伝わってきた。

 ◆ 二つの不安 厳しい財政運営/学内の意識改革
  
 国立大学財務・経営センター研究部長
 天野 郁夫 東大名誉教授

 国立大学側の反対を押し切る形で実施された法人化だが、1年が経過したと
ころで、学長による評価は意外に高いようだ。新たに設けられた経営協議会は、
大学経営の将来を考える上で刺激的で積極的な役割を果たしているし、学長の
権限強化によって、大学の運営・人事・財務面でのリーダーシップ発揮が可能
になった。

 大多数の学長が、法人化による改革推進への手応えを感じている。しかし、
それがその底に不安を隠しての評価であることが、アンケートの結果を通じて
みえてくる。法人化1年目の総合的な評価で、「評価する」が「どちらともい
えない」を大幅に下回っているのは、その端的な表れと読むべきなのかもしれ
ない。

 不安には、大きく分けて二つの理由がある。第一は、財政的基盤の不安定性
である。中期計画中は減額なしのはずだったのに、一定の削減率が掛けられ、
大部分の大学で次年度予算が減った。それに突如、授業料が値上げされた。財
政的な基盤が安定性を欠き、しかも毎年減額されていくのでは、将来を見据え
た積極的な大学経営はできないというのが、大方の学長の意見である。

 減額分は競争的に配分される新設の、「特別教育研究経費」でカバーすると
文部科学省はいうが、それでは大学の性格・個性の違いによる勝ち組・負け組
がはっきりし、格差が開く一方だという声も強い。

 もう一つの大きな不安は、学内の教職員の意識改革の問題である。リーダー
シップが強化され、経営協議会という心強い味方ができても、学内での合意形
成に手間取っていれば、改革は進まない。制度が変わったとはいえ学長の選任
自体、大方の大学で意向投票という形で教職員の支持をえる必要がある。

 教職員の意識改革の遅れが、改革を進める上でハードルになることを、多く
の学長が懸念している。ただ、これはあくまでも学長の意見である。一般の教
職員は、法人化をどう評価しているのだろうか。

 発足から1年、手探りの大学運営のなかで、大学と文部科学省の双方にとっ
ての問題点が見えてきた。難産の末に生まれた法人が、大きく健やかに育って
いくには、まだまだ努力と時間がかかりそうだ。