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新首都圏ネットワーク


『東京新聞』社説 2005年3月21日付

国立大授業料 値上げに伴う配慮を


 国立大学が法人になって四月で一年がたつ。一律だった授業料も今春の入学
生から大学によって初めて差がつく。民間の経営手法を推し進めるのもいいが、
学生不在の改革であってはならない。

 法人化後の国立大は、授業料を独自の判断で決めることができるようになっ
た。ただし、文部科学省が目安となる標準額を省令で示しており、これより安
くはできても10%を超えて高くすることはできない。

 年間の授業料は現在、全国一律で標準額と同じ五十二万八百円である。だが、
文科省は法人化後二年目に入る四月から一万五千円引き上げ、年間の標準額を
五十三万五千八百円とする。

 この標準額の値上げを機に、国立大としては初めて、横並びだった授業料に
大学間で差が生じた。

 文科省のまとめでは、全国立大八十九校のうち標準額通り値上げするのが八
十一校。値上げ幅を抑えたり、据え置く大学は八校にとどまっている。

 法人ごとに財務内容が違うので、大学によって学生から徴収する授業料に差
がでるのは、ごく当たり前のことである。

 ただ、ここではっきりさせておかなければならないのは、民間企業と同じよ
うに収支バランスの面から授業料を値上げするのなら、財務内容を明らかにし
値上げの必要性を示すべきである、ということだ。

 さらに、値上げによって経済的に余裕のない学生から、就学の機会を奪わな
いような配慮も必要である。

 標準額通り値上げする島根大では、地元の山陰合同銀行と提携して在学生を
対象にした授業料奨学融資制度を導入する。ローンの返済は卒業してからで、
在学中の利子は大学側が全額負担するのが特典だ。

 個々の学生の経済状況は千差万別である。値上げに伴うきめ細かな救済措置
は避けて通れない。

 国の行政機関の一部だった国立大学の、法人への移行を端的に象徴している
のが、各大学に設置を義務づけた経営協議会の存在である。

 予算の作成など、法人の経営に関する重要事項を審議する組織だ。委員の半
数以上を、企業経営者など学外から求めることになっている。

 それまでの「親方日の丸」的な体質を排し、民間企業の発想を取り入れた経
営体制を構築しよう、との狙いからである。

 この民間企業のやり方を突き進めていけば、おのずと授業料など「カネ」の
問題に行き着く。しかし、あくまでも大学である。学生を根幹に据えた改革で
なければならない。