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新首都圏ネットワーク


『毎日新聞』東京夕刊 2005年3月24日付

全入」前奏曲:変わる大学/3 人脈作り、国立躍起−−法人化で待ったなし


 この2月、鳥取大が東京商工会議所に加盟した。昨春そろって法人になった
国立大では初めて。私大を含めても産業能率大、立教大に続いて3校目だ。狙
いは人脈作り。「ビジネス交流会などで大学の研究をPRできる」と、鳥取大
の岩崎正美理事は期待を込める。

 鳥取大は「東京リエゾンオフィス」も東京・田町に設けた。リエゾンとは企
業と共同研究を進めるパイプ役といった意味だ。岩崎理事は「今後は(国から
の)運営費交付金も減る。生き残るため、教官700人の知を財に変えたい」
と話す。

 同様の事務所を開く国立大は少なくない。広島、熊本、鹿児島大……。法人
化をにらんで最も早い02年10月に開設した筑波大は、メッキ加工などで約
10件の共同研究にこぎつけた。今月12日には、東京都荒川区の産業展にも
出展し、地元企業が並ぶ中で異彩を放った。

 実は荒川区に工学系大学はない。同区を挟んで秋葉原とつくばを結ぶ「つく
ばエクスプレス」が今夏開業すれば、大学と同区の距離も格段に縮まる。その
時を見越したしたたかさが垣間見える。「法人化しなければ、ここまでやらな
かったでしょう」。筑波大のオフィス責任者、高野澤勝美さんは続けた。「待っ
ていたら駄目。競争です」

 国の行政組織ではなくなり、より自由な運営を手にした分、国立大の試行錯
誤は経営や運営面にも及ぶ。1月、国立大学協会が学長らを対象に開いた「大
学マネージメントセミナー」で、証券会社の幹部は将来構想の練り方を語った。
「全国の新任部課長らを集めた文部科学省ファミリーの組織内研修」(研修委
員長の本間政雄・京都大副学長)だったこれまででは考えられない内容だ。

 東京大は広報室を役員直属に格上げした。広告最大手の「電通」から出向し
た石川淳・広報室副室長の目に、従来の広報活動はこう映る。「せっかくの情
報発信がスイートスポットに当たっていないことも多かった」

 「バブル崩壊の寸前」。元山種証券社長で早稲田大副総長の関昭太郎さんは
私大を含む全入前夜をこう分析し、国立大の行方を予想した。「古いシステム
の中でなかなかハンドルを切れていない。これからが改革本番。経営という土
台に立った民間的な発想を持つ大学が生き残る」【銭場裕司】=つづく