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新首都圏ネットワーク


『神奈川新聞』社説 2005年3月12日付

「新生市大」の課題


 公立大学法人化に伴って学部を再編した横浜市立大学がこの四月に新たな船
出を迎える。二〇〇九年の開港百五十周年に向けて新たな施策や市民協働を模
索する中でシンクタンクや人材供給などの重要な役割を担う。「横浜市が大学
を持つ意義」を高めていくことは市大関係者の義務でもあり権利でもある。市
民や企業などに対して今まで以上に強力なリーダーシップを発揮してほしい。

 「大学新生」に当たってはカリキュラムなど学内の充実を急ぐことに加え、
対外的な新たな課題も浮上している。市内にキャンパスを持つ二十七大学(短
大含む)が十四日に発足させる常設連携組織「大学・都市パートナーシップ協
議会」への対応である。

 少子化の下、大学の生き残りは容易ではない。同協議会には、ライバル関係
にある大学間を連携し、さまざまな形で市民への知的資源の還元を進めながら
横浜のブランド力を高めていく狙いがある。中田宏市長は「『横浜をより良く
していく』という市大の設置目的に沿っている」と説明。市大と〇五年度に新
設される都市経営局大学調整課とが協力して応援していく方針を明らかにして
いる。

 そこで問われるのが市大の発信力である。開会中の市会審議で市大側は今後
の広報広聴について「ホームページ、受験専門誌などを通して新大学をアピー
ルしていく」と答弁しているが、いまひとつ戦略が見えてこない。細かい話だ
が、商・国際文化・理学の三学部を統合して誕生する国際総合科学部の入試が
先ごろあった。「第一期生」を目指す受験の場面は「新生市大」をアピールす
る好機なはずだったが、新聞やテレビなどへ取材を促す動きはなかった。広報
にせよ情報収集にせよもっと前へと出るべきではないか。

 国際総合科学部の志願者倍率は三・六倍で統合前の三学部合計(六・八倍)
を下回った。単純に比較はできないにしても、「入試方法が変わったことによ
る受験生の戸惑い」(大学側の市会答弁)だけに原因を求めるのは早計にすぎ
ないか。広報戦略などをきちんと総括し、来年以降に生かしていくことが必要
だ。

 もう一つは在校生への配慮である。一連の大学改革はこうした学生たちの理
解なくして進まなかった。市大側は現在の学部体制での学習機会を保障し、き
ちんと世に送り出していく方針だが、ぜひ徹底してほしい。

 横浜市内の大学生数は八万二千人で全国の大都市(東京二十三区除く)では
三番目の規模。そのネットワーク化だけでも大変な人的資源となる。協議会活
動へ期待が集まるゆえんである。横浜市と関係の深い市大が学内充実を進めつ
つ各大学の思いや提案も的確に受け止めて、行政サイドとのパイプ役となるこ
とを期待したい。