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新首都圏ネットワーク


時事通信配信記事 2005年3月16日付

教員養成の抑制撤廃へ=大量退職で人手不足−文科省


 文部科学省は、教員を養成する教育学部などの定員を抑制してきた姿勢を転
換する方針を固めた。背景には、第2次ベビーブーム期に大量に採用された公
立小中学校教員が退職し、近い将来、教員が不足するとの予測がある。ただ、
採用拡大で競争率が低下するのに伴い、教員の質が下がるとの懸念が出ている
ほか、大量退職により退職手当などの負担が急増し、自治体財政を圧迫するこ
とも予想される。

 教員養成系学部の定員は、第2次ベビーブームによる児童・生徒の急増を受
け、1966年度から80年度にかけ計約5000人増加された。その後は、
教員の計画的養成の観点から86年以降定員を抑制。さらに、少子化を受けて
98年度から3年間に定員が大幅削減された結果、一時は約2万人に上った教
員養成系学部の入学定員は、約1万人に半減した。

 今後、第2次ベビーブーム期に大量採用された教員が定年を迎えるため、退
職する公立小中学校教員は2004年度末の約7700人から、18年度には
約2万5000人に増加する見込み。加えて、少人数学級の編成を目的に、自
治体が採用を増やすことも予想される。このため教員需要が高まり、全国の公
立小中学校の04年度採用実績は2万300人程度であるのに対し、09年度
の採用数は2万4000人近くに増えると推計される。

 こうした見通しから、同省は教員供給の増加に踏み切る。3月中にも告示を
改正、06年4月から教員養成系学部の新設・定員増を可能とする。

 他方、採用を拡大するのに伴い、教員の資質低下が懸念されている。既に首
都圏や近畿圏など大都市圏では採用が増加に転じており、04年度、埼玉県で
は2000年度の4倍近い1145人、東京都では2倍超の2227人、大阪
府では6倍近い1755人が採用された。採用増の結果、首都圏では採用試験
の競争率が4〜5倍程度に低下。「倍率が3倍を切ると教員の質が下がる」
(大路正浩千葉県教育委員会教育次長)との指摘もあり、今後は「量の確保」
とともに「質の確保」が求められる。

 さらに、大量退職に伴い、退職手当などの人件費負担増が自治体に追い打ち
をかける。中央教育審議会臨時委員の苅谷剛彦東大大学院教授の試算によると、
14年度の教員人件費は04年度より4000億円程度多い約6兆3000億
円に上る。特に、へき地校の多い地域で人件費が急増。04年度から18年度
の増加率は東京都が約3%、全国平均が約5%にとどまるのに対し、高知県、
長野県、岐阜県では10%を超す見通しだ。苅谷教授は「人手不足と財政不足
のダブルパンチに見舞われる」と警鐘を鳴らしている。(了)