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『毎日新聞』東京夕刊 2005年3月12日付 教授退官、その前に 君たちに伝えておきたいことがある 春。卒業式の季節だが、区切りを迎えるのは学生だけではない。研究・教育 活動に長く心血を注ぎ、退官する3人の教授に焦点をあてた。【横浜市立大・ 今井美津子】 ◇「大学に希望ある」。なお研究に意欲−−東京都立大、茂木俊彦総長(6 2) 茂木総長は、同大での24年間を「自由な雰囲気の大学だった」と振り返る。 飲み屋で学生と激論したり、ケーキバイキングに一緒に行ったりと、学生と近 い教員生活だったという。 「実は総長にはなりたくなかった」。専門の障害児心理学の研究時間が減っ てしまうからだ。総長に選ばれたのは、定年までの2年間を頑張ろうと思って いる時だった。総長になって最も不自由さを感じたのは、障害児の保育や教育 現場に行けなくなったことだ。 その上、任期中は都立大など4大学を「首都大学」に統合する問題で大学が 揺れた。都と教職員の話し合いは十分だったとは言い切れないが、希望はある という。 「教員流出が話題になったが、これまでの蓄積を生かして努力すれば優秀な 人材が戻ってくるはず。大学に希望はある」 4月からは都内の私立大へ移る。「1年目は総長の間に鈍ってしまった『現 場のカン』を取り戻さなくては」。あくまで紳士な風ぼうの一方、今でも色あ せない研究への意欲を感じさせた。 最終講義は26日、「共感関係の深化と発達の保障をめざして」をテーマに 行う。 ◇「龍角散」の香りさせ、最後のミニ授業−−横浜市立大、鈴木正夫・国際 文化学部教授(65) 「今日は大勢の前で話すので『龍角散』をいつもより多く飲んできました」。 2月9日開かれた退官記念コンパは鈴木教授のこの一言で始まった。同大シー ガルセンターにOBも含め約100人が集まった。中国文学を専攻し、1年生 の中国語を長年担当したことから教授を慕う学生は多い。 教授は授業中、いつも墨のようなにおいを漂わせていた。正体は龍角散。授 業のためのどをよくしておくのだ。コンパでは一層その香りをさせ、最後のミ ニ授業は「郁達夫の最期をめぐって」と題し、30分間語った。大学入学まも なく、翻訳で読んだのがきっかけで、研究し始めたという。 最終講義はしない。理由の一つは「大学改革に疑問があるから」。中国文学 専攻は現1年生が卒業の時点で終わりとなるため、後任がこない。4月から同 大で非常勤教官として教べんをとる予定だ。 ◇女性「優雅さが必要」−−学習院女子大、永井和子・国際文化交流学部教 授(70) 永井教授の専門は日本文学史。源氏物語や更級日記などの平安期女流文学に ついての研究で知られている。 1年生の基礎演習(プレゼミ)で、永井教授が「女性は子供を宿すという点 においてとても強い生き物で、また男性から見たら化け物である。そんな女性 が男性と融合するためには、優雅さが必要」と話したことが強く印象に残って いる。まさに優雅な雰囲気の女性だったことからも、深く納得した。 退官後、非常勤講師などの予定は今のところないという。何らかの形で永井 教授の薫陶を受けられる機会があることを願っている。【学習院女子大・永瀬 晶子 |