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新首都圏ネットワーク


Japan Medicine (医療経済情報紙) 2005年3月9日付

国立大学長らに病院経営指南、きょうから国立大学病院経営セミナー開催
大学病院長と認識共有化へ


 国立大学法人の財政基盤を支える収入の3〜5割を稼ぎ出す国立大学付属病
院の経営安定化は、いまや大学法人にとって最重要課題となっている。その一
方で、国立大学法人の学長と付属病院長の経営に対する考え方が必ずしも一致
しない施設が多く、病院経営に対する認識の共有化が急務となっている。こう
した現状を踏まえ、国立大学協会、国立大学附属病院長会議、文部科学省、国
立大学財務・経営センターは、初めての試みとして、9日から2日間、42の国
立大学法人の学長、理事および付属病院長、事務部長など幹部を対象にした
「国立大学病院経営セミナー」を開催する。さらに、今回のセミナーに先立ち、
国立大学附属病院長会議・常置委員会(委員長=藤澤武彦千葉大病院長)は、
国立大学病院の経営に対する第1次提言をまとめ、学長と病院長の経営に対す
る認識のミゾを埋めていく方向性を示した。

 国立大学法人は、病院経営の改善はもとより、労働関係法規への対応、そし
て病院運営上の病院長に対する人事権や予算権の権限委譲などを含む病院とし
ての意思決定システムの見直しなどに迫られている。

 今回の病院経営セミナーの企画委員の1人でもある藤澤委員長は、「国立大
学の中で、最大部局で経営的に最大の影響を持つのが大学付属病院だ。病院経
営の最終責任者である学長には、大学病院としての社会的責務と経営課題につ
いて認識を共有していただきたい」とし、経営セミナーを通じての成果に期待
を示した。

● 常置委員会が経営提言

 大学病院のミッション実現に病院長の人事権不可欠

 同セミナーに先立ち、国立大学附属病院長会議・常置委員会運営改善問題小
委員会がまとめた「国立大学病院の経営に対する第1次提言」では、「国立大
学病院のミッションの確立と達成」を基本的な柱に置いている。

 具体的なミッションとしては、いわゆる教育、研究、診療のほか、新たな治
療法の開発と評価、医療の質と安全性の確保、地域医療の支援と高度医療の提
供などを挙げている。これらのミッションを職員全員で共有し、ミッションの
達成度を明確化し、その改善に向けた組織・経営戦略を決め、それを工程表と
して提示していくことが必要だと指摘している。

 特に、大学病院のミッションを達成していくためには、病院長の人事掌握が
必要としている。実際に国立大学法人では、病院長の人事権を病院経営の最終
責任者である学長が持つが、同提言では、病院予算・人事などの最終決定権は
病院長に付与することを求めている。

 具体的には、病院での診療、臨床研究、臨床教育に従事する職員の意見を反
映しながら、「病院長が最終決定する」ことが必要だと提言しているほか、臨
床系講座の責任者の人事についても、病院での人事戦略を適切に反映させる上
で病院長の関与が不可避だとし、病院長への人事権の委譲が必要だと指摘して
いる。

 この点について藤澤委員長は、「病院長が病院に関するすべての人事権を持
つべきだと要求しているのではない。例えば、病院経営の基本となる診療報酬
に関係する部門には、有能な事務職員を固定的に人員配置ができるような内部
組織改革が必要だということだ」と説明し、医療現場に即した人事の掌握が可
能な体制整備を求めている。

● マンパワーや人件費の充実が必要

 一方、法人化後に国立大学法人に適用された労働基準法適用への対応につい
て提言では、「多くの国立大学付属病院では、従来のような当直体制を組むこ
とができない。交替制勤務にしたことで日勤勤務時間帯の職員配置が手薄になっ
ている現状を踏まえ、医療の安全を確保する上でも、マンパワー、人件費の充
実が必要だ」と指摘している。

 藤澤委員長によると、国立大学病院は、すでに看護師数で他の経営主体別の
同規模病院と比較しても、病床100床当たりで約10%少ない配置で賄っているの
が実態だという。

 こうした点からも、高度先進医療を提供する超急性期病院であるべき国立大
学病院が抱える厳しい職場環境が浮かび上がっている。これらの現状打開のた
めにも、病院経営における学長と病院長の機能的な役割分担を進めることが急
務になっている。

 さらに国立大学病院では、2003年度から入院患者について診断群分類に基づ
く包括評価制度(DPC)が導入された。同提言では、DPC下での病院経営
に対してコストアウトライアーの把握と、その分析の必要性を強く求めた。

 具体的にコストアウトライアーの発生要因が、患者の病態によるものか、過
剰診療か、診療能力が低かったのか、社会的入院なのかなどを分析する一方、
DPC適用外の症例についてもコスト計算をきちんとすべきとしている。将来
は請求額準拠の診療報酬からコストに基づいた診療報酬制度に改定される方向
で検討されるとし、「各診断群分類ごとに診療報酬とコスト比較が可能な管理
会計システム」の構築が必要と提言している。