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新首都圏ネットワーク


『サンデー山口』2005年3月11日付

山口大の挑戦 −法人化から1年−


 国立大を国の機関から切り離し、独立した組織へと移行する「国立大学法人
化」がスタートして1年。自立的な経営努力が求められる国立大は、どこも厳
しい状況下にある。さらに大学法人化の波は、県立大、市立大にも押し寄せて
いる。そんな中、山口大学(加藤紘学長)では、独自の試みを次々と打ち出し、
他大学との差別化に積極的。生き残りをかける山口大の取り組みを取材した。

 そもそも国立大学法人化は、「公務員の人員を減らす」という行財政改革の
一環として持ち上がったもの。実際、山口大の今年度の営費交付金は数億円規
模で減額されている。政府は、法人化によって大学の自由度が大幅に増すとメ
リットをうたっているが、各大学とも苦しい運営に頭を抱えているのが現状。
存続のためには相当の経営努力が必要だ。

 数年前から法人化への対応を練ってきた山口大は昨年4月以降、独自の試み
を次々にスタートさせている。縦割りから横割りへの組織改編、学生や同僚が
授業内容を評価するという教員のレベル向上を目指した新たな教育評価の導入、
特に優れた研究を行っている教員に時間・費用・人員を提供する「研究特任」
の選任、高い専門性を持つ研究推進体の充実など、学内改革はもちろん、学外
に対しても、市民向け講座の充実、宇部興産やトクヤマ徳山製造所など地元企
業との研究・技術提携、宇部高専との交流協定締結と、この1年の動きはめま
ぐるしい。

 しかし今春、一つの壁にぶつかった。昨年末の政府予算編成で、国立大の年
間授業料の目安となる「標準額」が現行の52万800円から1万5千円引き上
げられることになったのだ。それに伴い、全国83の4年制国立大のうち、山口
大を含む6割以上の大学が授業料の値上げを行う。国から各校への運営費交付
金が削減傾向の中で、財源を確保するための値上げはやむを得ない。

 そこで山口大は、独自の特待生制度を導入して対応を図る。成績優秀者に限っ
て授業料を免除するという制度。在学生の成績アップや、大学選びの際の動機
付けにつなげる狙いもある。7学部全てを対象に、前・後期で各学年から成績
上位者を選び、次期の授業料を免除。経済的理由に基づく免除制度は各大学で
既にあるが、条件を成績に特化した制度は全国で初めてだ。

 さらに新年度には、社会ニーズの高い観光政策学科、応用分子生命科学系専
攻、環境共生工学を新設。就職相談を専門に扱うキャリアカウンセラーの学内
配置も行う。西日本の大学の中でも特に山口大に人気の集まっている獣医学科
を充実させる他、県外者の来院も多い家畜病院の施設拡充も計画中だ。

 「法人化は山口大にとってプラスだった。公立大の序列が崩れる大きなチャ
ンスともとらえている。強い分野を磨いて個性化を図るとともに、地域社会に
より必要とされる大学を目指す」と大坂英雄副学長。広中平祐元学長が設置し
た日本で唯一の研究所「時間学研究所」も、山口大の目玉として打ち出してい
く。

−法人化まで1年− 県立大
向かうは地域貢献

 大学運営の効率化やさらなる地域貢献を目指し、県立大学(岩田啓靖学長)
は06年4月、公立大学法人となる。こちらも、少子化や国立大法人化、県の行
財政改革などが発端。利点は、県の交付する運営費の効率的な利用を促し、予
算や組織、人事など様々な面で大学の自由度が増すこと。

 地域に開かれた大学づくりを進めてきた県立大は、「地域貢献型大学」とし
て地元に積極的に関与することで、厳しい大学間競争に打ち勝っていく考えだ。
地元のニーズに応じた学習機会の提供、知的資源を活用した地域課題の解決、
産学公の共同研究などに力を入れ、地域との連携強化を図ろうとしている。

 先月8日には、法人化を円滑に進めるための準備委員会の初会合が県庁であっ
た。委員は、県と大学側の関係者、学外有識者の8人で、組織や制度など法人
化後の運営のあり方を検討。来年度末まで計7回開く予定で、9月県議会に評
価委員会設置条例などを提案し、10月に国へ認可申請する。なお、学費につい
ては法人化後も引き上げない方針だ。