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新首都圏ネットワーク


『高知新聞』2005年3月5日付

知事が任命拒否撤回 工科大学長選任 岡村氏再任へ


 高知工科大の次期学長選考で、同大理事会が続投を決めた岡村甫学長(66)
の任命を拒否していた理事長の橋本大二郎知事は4日、県議会2月定例会の質
問戦で「理事会決定に従って、現学長を次期学長に任命する」と任命拒否の発
言を撤回し、県民に陳謝した。発言の撤回で学長選考問題は収拾に向かったが、
副学長人事や次期理事会の体制などをめぐっては火種を残しており依然、波乱
含みだ。

 西森潮三氏(自民)の質問に答えた。発言撤回の理由について橋本知事は
「このままでは大学のイメージダウンにつながりかねない。理事長の任命権は
形式的なもので、理事会の決定が優先するとの法的見解も頂いた」と説明。自
ら引き起こした今回の混乱について「学生や保護者、多くの県民に心配を掛け
たことをおわびする」と陳謝した。

 ただ、「大学の現状は県民との距離が遠くなっている。厳しい競争の時代を
生き抜いていけるか強い危ぐを抱く」と、あらためて現体制に対する不満を強
調。「現在の理事のメンバーや、その選任の手法は一から見直す必要がある」
と述べた。

 本会議終了後、橋本知事は取材に対し、任命を拒否したことは「間違いでは
なかった」。発言の撤回についても「今の学内体制は変えることは必要だとい
う考えは変えていない」と話した。

 25日には定例の理事会が開かれるが、橋本知事はこれまでに3月末で任期
満了となる理事の入れ替えなどを提案する考えを示しており、その動向も注目
される。

 橋本知事が任命の意向を示したことを受け、岡村学長は「心を新たにして決
定を受けたい。皆さまに心配を掛けたことを申し訳なく思い、おわび申し上げ
る。『雨降って地固まる』がごとく、この機会を前向きにとらえ責任を果たす
所存だ。今後については理事長と話し合い、期待に応えられる大学を目指す」
とのコメントを発表した。

 同大の学長選考は2月、多数の理事が支持する岡村学長と、橋本知事らが推
す米沢富美子・慶応大名誉教授(66)の2人が候補者となり、理事会が混乱。
2月28日、理事による郵便投票で岡村学長の続投が決まったが、橋本知事が
岡村学長を「任命できない」と拒否し、理事や教員から反発が強まるなど混迷
していた。



学長問題、急転の背景は 自民県議が決着シナリオ


 高知工科大の次期学長問題で、理事長の橋本大二郎知事が岡村甫学長(66)
の任命拒否を一転、撤回し、再任する意向を表明した。2月28日の任命拒否
方針の表明からわずか4日。「主張に無理があるのは承知している」と、ルー
ル無視とさえいえる強硬姿勢を示した橋本知事が急転直下、方針を変えた背景
には何があったのか。関係者によると、そこには県内経済界の有力者の存在や
自民党県議の水面下での働き掛けがあった。

 ■憂慮

 同大の次期学長選考は学内外の代表者でつくる選考委員会が1月、岡村学長
の続投を決めたが、2月11日の臨時理事会で橋本知事は米沢富美子・慶応大
名誉教授(66)を推す考えを示す。これが混乱の始まりだった。

 理事会は結局、郵便投票を実施し、その結果を理事会決定とすることを申し
合わせたが、橋本知事は24日、自ら記者会見。経営見通しの甘さなどを指摘
し、岡村体制では「県民のプラスにならない」と訴えた。

 自民党県議によると、その数日後、橋本知事は事態を憂慮していた県内経済
界の有力者と、ある会合で同席。知事の受け答えから有力者は、郵便投票で理
事会の決定が出れば知事もそれに従う意向だと理解。有力者は、渦中の岡村学
長に「激励の言葉」を掛けたという。

 ところが28日夕、事態は思わぬ方向に向かう。郵便投票の結果、大差で岡
村学長の続投が決まると、橋本知事は直ちに任命拒否を表明。理事長の一言で
学長人事が宙に浮くという異常事態に発展した。

 橋本知事は翌3月1日の県議会の質問戦でも「(理事長の)権限の乱用と取
られかねないとの指摘はその通り」と認めた上で、任命拒否の姿勢をあらため
て表明した。

 ■激怒

 こうした言動にその有力者は激怒。それを直接聞いた自民党県議が同日午後、
橋本知事に伝えると、知事は色を失ったという。

 2日の県議会の質問戦では「心配をいただいているのは重々承知している。
早急に対応していきたい」と答弁が微妙に変化。同日夜には岡村学長と知事公
邸で約1時間にわたって会談し、任命問題にこそ触れなかったものの、互いの
主張の違いなどを話し合った。

 早急な決着を図るため自民党県議も動く。4日には西森潮三氏(自民)が質
問する。任命拒否の撤回を答弁させるというシナリオだった。「知事自身が無
理があると言っているわけで、今回の発言は撤回したらどうか」―。橋本知事
は表情ひとつ変えず、淡々とそれに応じる答弁をした。

 同日の本会議終了後、報道陣に囲まれた橋本知事は、任命拒否の撤回を
「(誰にも)相談はしていない。自分の判断」と説明。いつ判断したのかも
「ここ数日」と答えるにとどまった。

 方針転換の経緯については最後まで言及しなかったが、こうも言った。「肩
書のある人から一般の県民まで、いろんな意見があった…」

 先の有力者は本紙の取材に対し、こうした経緯について明言を避けた。しか
し、橋本知事は本会議で任命拒否の撤回を表明した4日夕、県庁を出るとすぐ
さまその有力者の元へと公用車を走らせた。