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新首都圏ネットワーク


『朝日新聞』神奈川版 2005年3月5日付

「大学改革」 揺れる横浜市立大


 4月から地方独立行政法人化する横浜市立大。学部の統合や教員への任期・
年俸制の適用などが決まっている。だが、知らないうちにいろいろなことが変
わっていく事態に、学生からは不安の声も上がっている。学生から見た「大学
改革」の現実とは−−。

(横浜市立大・細見葉介)


 「改革」をめぐり、学生たちには不安の種が尽きない。改革で検討された授
業料値上げの計画もその一つだ。「自分で生活費と学費を払っている学生は授
業に支障が出るほどバイトしている。値上げしたらどうなるのか」。こう話す
のは、国際文化学部2年の藤田麻衣子さん(20)だ。

 ■ゼミが消える

 懸念は学費だけではない。改革の一環で、教員に任期・年俸制を適用するこ
とになったためか、待遇のよい他大学へ転出する教員が増えている。同学部3
年の女子学生(21)は、所属していたゼミの先生が退職。後任がおらず、ゼ
ミは消えることになった。「4年生まで教えてもらえると思っていたのに……」

 ■雑誌打ち切り

 改革とは直接関係ないかも知れないが、予算削減に伴うサービス低下もある。

 「Newton」「アサヒカメラ」「Newsweek」「キネマ旬報」
「芸術新潮」……。図書館が昨年、購入を打ち切った雑誌の一部だ。日本の雑
誌はピーク時の4分の3、外国雑誌は3分の1に減った。雑誌の棚には空きが
目立つ。

 国際文化学部3年の喜多村龍秀さん(20)はよく読んでいた何冊かがなく
なり、仕方なく外の図書館まで出かけている。司書は「予算削減で図書費は毎
年カットされている。でも、電子ジャーナルなどは充実させている」と説明す
るが、喜多村さんは釈然としない様子だ。「大学全体が、直接利益を生み出す
ものだけに金をかけているように見える。ほかにも大事なものはあるのに」

 ■動き出す学生

 これまでの改革の過程では、主役のはずの学生の声が聞き入れられていなかっ
たのが実情だ。一昨年、学生有志が改革に学生の意見を反映させることなどを
求め780人分の署名を大学当局に提出したが、返事はない。

 こうした中、2月にあらたに有志の学生が「NOB(Network of
OutBurst)」という組織を設立。新学長に内定しているブルース・ス
トロナク氏と話し合い、今後は学生の意見を伝える機会を作るよう求めた。ス
トロナク氏も「大学は町と同じで、教員・学生・職員が一緒にかかわらなけれ
ばならない。学生と話し合える場を作りたい」と応じた。

 NOBの代表、国際文化学部2年の富樫耕介さん(20)は言う。「学生へ
のサービスが向上する改革ならやるべきだし、同時にそれを評価する態勢を作
るべきだ。これからは学生・教員・職員の三者が主体になれるようにしたい」

 ■改革担当者は

 学生の不安について、同大の大学改革推進課の担当者は「学生への説明会を
開いたが、思ったより集まらなかった。ゼミの改廃は改革の前からあった」と
説明。授業料については「05年度は値上げしない方針で予算案を出している。
市議会の議決なしに値上げはできない」という。


 ■横浜市立大の「改革」について、学生インタビューから

 「本当に市民のためになる改革なら賛成だが、実際はどうなのかが伝わって
こない」(商学部3年・男)

 「市が財政難なので学費値上げは仕方ない」(商学部3年・男)

 「(看護短大は05年度から募集停止になるが)私たちは短大生として卒業
するのであまり関係ないのでは。改革のことはよく知らない」(看護短大1年・
女)

 「学部を統合すると専門的な研究がしづらくなる」(理学部1年・男)


 ■改革で学生生活、何が変わる?(主な点)

 ●指定校推薦入試の導入 従来は市内出身者ならどの高校からも出願できる
公募制入試だったが、特定の指定校から募集する

 ●教職課程の削減 国語・社会系や司書教諭の教職取得ができなくなり、英
語・数学・理科のみ取得可能に

 ●TOEFL500点が進級要件 英語教育を充実させ、すべての学生にT
OEFL500点の取得を3年次の進級要件とする

 ●学部の統合 現在の商・理・国際文化の3学部を「国際総合科学部」に統
合。入学後、国際教養学・理学・経営科学の三つの学系を選んで進級すること
ができる

 ●看護短大を廃止 看護短大を廃止し、4年制の看護学科を医学部に設置する