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松尾尊兌(まつおたかよし、京都大学名誉教授)『滝川事件』岩波現代文庫、
2005年1月18日刊

「あとがき」より

 学問の自由、大学の自治は、戦後、法的な保障が与えられた。たしかに国家
権力によるむき出しの形の自由・自治への侵害は行われにくくなったが、今日
代って登場したのが「金力」を使っての介入である。国立大学独立法人化によ
る自由・自治への影響はまだ確然としないが、文部科学省が各大学への交付金
を毎年約一パーセント減らす一方、六年ごとにあらかじめ立案させた各大学の
中期目標の達成度を審査し、予算配分に反映させるというやり方は、それ自体
が自由・自治をおびやかすものではないか。研究費の配分において目に見えて
即効性のある研究部門が重視され、長期を要する基礎的研究部門が軽視される
傾向はすでに現れている。研究と教育の現場では研究費獲得のための書類づく
りが本務を妨げる。このような傾向は私立大学をも例外としない。この新たな
自由・自治の危機的局面において、本書が何らかの参考となれば、望外の倖せ
である。