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新首都圏ネットワーク


『高知新聞』2005年03月01日付

高知工科大学長選任 知事岡村氏の再任拒否


 高知工科大理事会は28日、任期満了に伴う次期学長選考で、理事による郵
便投票の結果に基づき岡村甫学長(66)を選出したが、理事長の橋本大二郎
知事が同学長の任命を拒否。次期学長の人選が宙に浮く異例の事態となった。
今回の学長選考では、現職続投を支持する主流派の理事らと、慶応大の米沢富
美子名誉教授(66)を推す橋本知事らが対立しており、知事は任命しない理
由について「このままでは大学がいい方向に進むとは思わない」などと説明。
3月末の任期満了が迫る中、混乱は必至の情勢だ。

 開票は28日夕、高知市内で実施。同大によると、岡村学長を除く11人
(橋本知事を含む)の理事全員が投票、岡村学長は米沢名誉教授の2倍以上の
票を獲得した。

 結果は直ちに橋本知事に報告されたが、知事はその直後「理事長として岡村
氏をそのまま任命することはできない」とのコメントを発表。会見では「任命
行為は実質的な意味合いがあると受け止めた」とした上で、「このままではど
こにでもある大学になって、2007年問題は乗り切れない」などと述べた。

 同大の規定では、学長の選任は「理事長が候補者を選考し、理事会の議を経
て理事長が任命する」ことになっている。理事会が選んだ学長を理事長がその
まま任命することを想定した規定といえるが、橋本知事は任命権者としてそれ
に従わない強硬な姿勢を示した。

 これを受けて会見した岡村学長は、学長を辞退する考えがないことを表明し
た上で「今までの知事の見識からは信じられない」などと話した。

 今回の事態を受け、理事会の混乱は必至。予定では3月25日に定例理事会
が開かれることになっている。

 今回の学長選考では、1月に学内外の代表者でつくる学長候補者選考委員会
が岡村学長と米沢名誉教授を候補者とし、岡村学長の続投を決めたが、橋本知
事は2月11日の理事会で、米沢名誉教授を推す考えを示したため混乱。結局、
2人を候補者とし、投票結果を理事会決定とすることを申し合わせていた。

 さらに橋本知事は投票期間中の24日に会見。岡村学長との経営手法の違い
を説明し、米沢名誉教授を推す考えをあらためて表明していた。


工科大学長再任拒否 学内に怒りと混乱


 「大学を良くするため」―。高知工科大の学長選任で28日、岡村甫学長続
投の理事会決定を拒否した理事長の橋本大二郎知事。任命権を最大限に行使し
た知事の予想外の行動に、大学関係者は「まさか」「なんで」とぼうぜん。学
内に走った激震はやがて、「常軌を逸している」「大学経営トップのすること
か」と怒りへと変わった。

 「橋本知事が岡村学長の任命を拒否」―。その一報は、香美郡土佐山田町の
高知工科大でも衝撃となって教職員や学生の間を駆け抜けた。

 大学事務局では主な職員は午後7時半をすぎても帰宅せず、「なんで」「ま
さか…」とぼうぜんと立ち尽くしたまま。「一体、この大学はどうなるのか」
と不安を隠し切れない。

 岡村学長は憔悴(しょうすい)し切った表情で会見に臨み、「信じられな
い」。学長続投の意気込みを示す一方、事態の打開は「どうすればいいか分か
らない。教職員と相談していく」と答えるのが精いっぱいだった。

 教員たちも強く反発。「いくら理事長でもここまでやっていいはずがない」
「今、大学は入試の合格者が入学手続きをしているところ。辞退が相次ぐよう
なら一大事」「経営トップ自らが大学を窮地に陥れるとは何事か」。岡村学長
の運営手法に「問題点もある」と指摘してきたある教授も「さすがに、こんな
やり方は許されない」と語気を荒らげた。

 この日、同大で開かれた会議に出席していた初代学長の末松安晴・国立情報
学研究所長は「少ない教職員で競争率が高いCOE(卓越した研究拠点)に採
択されるなど、客観的に見ても成長している大学。トップを代えるという話に
はならないはずだが」と首をかしげた。

 2月11日の理事会では、橋本知事は「(学長選考の)最終決定は理事会で」
と主張。理事会に最終的な権限があるとの姿勢で議論を進めたが、投票で選出
後の任命拒否は、「先の理事会での発言とも矛盾している」との声もあり今後、
理事の反発は必至だ。

 出口さえ見えない学長選考の混乱ぶりに、電子・光システム工学科の学生は
「理事長と大学がもめる、この大学はそんなレベルだったのか。失望した」と
吐き捨てた。


 橋本知事 「大学良くするため」

 理事会決定が最終的な判断になると、誰もが信じて疑わなかった。「岡村氏
を任命しない」―。

 理事による投票結果を橋本知事に直接伝えた同大事務局の職員は、報告した
その場で知事の意向を知り、「任命行為は形式的なものと解釈していたが、理
事長はそうではなかった。正直困っている」と驚きを隠さなかった。

 詰め掛けた大勢の報道陣の要請で、会見に応じた橋本知事は花粉症対策で着
けているマスクを外し、まず学長の任命行為について、「実質的な意味合いも
あると受け止めた」と主張。

 ただ理事会という意思決定機関を無視する格好にもなりかねないだけに、
「手続き的には極めて困難なことをやっていると私自身認識している」とも。
法的な可否について大学事務局で検討するよう指示したことも明らかにした。

 特に気色ばむ場面はなく、淡々とした口調で、「知事という立場で県民の負
託を受けて、(大学)経営に参画し理事長という責任を担ってきた。その立場
からいえば、このままでは大学がいい方向に進むとは思えない」と自説を展開。
「大学を良くするため」との姿勢を強調した。

 ただ、一般的には想定しづらい異例の判断。「今回の行為に県民の理解が得
られると思うか」との質問も飛んだが、「理解してもらわなければいけないと
思う」。その上で、「理事も含めて大学の経営が変わっていかなければいけな
い時。それを県民の代表として自分のできる限り訴えている。理事長が一方的
に独自の権限でしていけばいいなんて思ってはいない」と主張した。