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新首都圏ネットワーク


『東京新聞』2005年2月28日付

早わかりQ&A
国立大学の授業料なぜ格差がつくの
法人化で自助努力求め
佐賀大据え置きでも大半値上げ

Q 国立大学の授業料に今週、初めて格差が生じるというのは本当ですか。

A はい。国立大が昨年四月に法人化されたことで、大学が独自の判断で、授業
料や入学金、受験料を決めることができるようになりました。ただし、文部科
学省が省令で目安となる「標準額」を示しており、これより安くすることはで
きても、10%を超えて高くすることはできません。

 現在はまだ、国立大の年間授業料は全国一律、標準額と同じ五十二万八百円
です。ところが、文科省は今春、標準額を一万五千円引き上げ、五十三万五千
八百円にします。これに同調して値上げに踏み切る大学と、据え置く大学とが
出てきました。

 同省によると、全国八十三の四年制国立大学のうち、二月二十三日現在で授
業料の据え置きを決めたのは佐賀大学だけです。愛媛大は二年間で標準額に引
き上げ、小樽商科大は前期分だけ据え置いて、後期分から標準額に引き上げま
す。

 標準額に合わせて今春からの値上げを決めたのは五十四大学。このうち東大
と三重大は大学院博士課程の授業料は据え置くほか、北海道教育大学は大学院
修士課程を据え置きとします。

 残り二十六大学が態度を明確にしていませんが、値上げに踏み切る大学が多
いとみられています。

Q 標準額は何のために、どうやって決めるのですか。

A 国立大は法人化されても、学生や教員の数などに応じて必要な運営費が国か
ら交付されます。しかし、教育研究実績が第三者機関に評価され、その結果が
交付金の配分に反映されるなど、成果主義や自立的な運営を迫られるようにな
りました。

 自己収入拡大などの経営努力が求められていますが、授業料などについては
国立大の性質上、学生の経済状況によって左右されない進学の機会を提供する
ため、高額にならないように適正な金額を示しているのです。

 学生にとって授業料が安いほうがいいのは当然ですが、大学にとっても値上
げは学生離れにつながり、国立大学協会は標準額の値上げに反対しましたし、
文科省も値上げには消極的です。

Q ではなぜ値上げをしたの。

A 一つは私立大の授業料との格差が大きくならないようにするという理由です。
また、昔に比べて大学に進学する人が増え、現在大学・短大への進学率は49.9
%。受益者である学生に応分の負担を求めてもいいのではないかという考えも
出てきました。もちろん、国の支出を減らしたい財政当局の意向が大きく働い
ています。

Q どうしてほとんどの大学が標準額に合わせて値上げするのですか。

A 理由は国から大学に支出される運営費交付金の算定方法にあります。国は標
準額を値上げすると、それだけ大学の自己収入が増えたとみなして、運営費交
付金を減らします。たとえ大学が授業料を据え置いた場合でも、算定方法は変
わりません。

 値上げしなかった大学は、その分の財源を自助努力でつくり出さなければな
りませんが、交付金の一部は毎年、一定割合で減らされており、財源確保のた
めに値上げに踏み切らざるを得ないのが実情です。

Q これまでの授業料はどうなっていましたか。

A 三十年前、一九七五年は年間三万六千円でした。私立大との格差是正や物価
上昇などを理由に、八七年から隔年で値上げされています。

 現在、私立大の平均授業料は約八十一万八千円で、国立大学の約一.六倍。
七五年は私立大が約十八万三千円で約五倍の格差でしたから、かなり縮まった
といえます。ただ、私立大との格差については、国立大を値上げするのではな
く、私立大への助成金を増やして授業料を引き下げさせるべきだとの意見もあ
ります。

Q 今後の見通しは。

A 現状では標準額を上回る授業料を決めたのは、東京農工大が四月に開校する
専門職大学院だけです。私立大の場合は医学部や法学部など、卒業後に高収入
が見込まれる学部の授業料を多角する傾向がありますが、文科省は国立大につ
いては意欲ある学生に門戸を開くため、学部間の授業料に格差が生じないよう
にしています。

 ただ、10%の範囲内では少人数指導や実習の導入などを理由に、学部や学年
によって異なる授業料を設定する大学が出てくる可能性があります。

(社会部・高橋治子)

各国の大学授業料

 文科省の資料によると、フランスの国立大は無料。ドイツに国立大はなく、
州立大が無料。イギリスの国立大は7年前から有料になったが、2002年で約21万
円と、日本の国立大の半分以下となっている。さらに、本人や家族の所得によっ
て減額や免除措置がある。

 アメリカの州立大で、01年では総合大が平均約47万円。一方、私立の総合大
は平均約234万円。有名校ではマサチューセッツ工科大が約297万円、シカゴ大
が約292万円などと、公私間の格差が大きいのが特徴となっている。

標準額に関する省令改正

 文部科学省は、「国立大学等の授業料その他の費用に関する省令」で、4年制
大学の学部や大学院、短大、専修学校、高校、幼稚園などの授業料や入学金、
受験料の目安となる標準額を定めている。今回の値上げは授業料だけで、入学
金や受験料は据え置いている。大学院は現行の52万800円から1万5000円、短大
は37万9200円から1万800円をそれぞれ引き上げる。法科大学院の80万4000円は
据え置いている。

 同省は今通常国会での05年度予算案の審議に合わせて、3月に省令を改正する。