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新首都圏ネットワーク


『科学新聞』2005年2月18日付

第3期基本計画と国立大学法人化


大学の財政基盤確立を支援

 第2期科学技術基本計画も平成17年度で区切りをつけ、いよいよ第3期の同
計画策定に向けての議論が進められている。この基本計画推進の原動力となる
のが大学であるが、その大学も今大きく変わろうとしている。そこで、国立大
学の法人化に大きく関わってきた文部科学省研究振興局の清水潔・局長に、今
後の展望を伺った。その内容を2回に分けて連載する。

<国立大学の法人化>

 これからの科学技術・学術の振興の担い手として、大きな役割を占める国立
大学に行政としてどのような期待を抱き、どのような施策が必要とされている
かということを中心にお話したいと重います。

 国立大学は、昨年4月に法人化されましたが、この一年間というもの各法人
は、新しいスキームでの大学の中・長期目標、計画の策定等に追われ、法人化
本来の趣旨としていた”組織体としての大学の教育、研究に関する戦略”を確
立し、大学の体制を整備していくことは、未だに途上にある段階といえましょ
う。

 研究の振興という観点から見ますと、国立大学における研究活動、あるいは
研究の場でもあり教育の場でもある大学院の機能をどのように充実、発展させ
ていくかは、実はこれからなのだろうと思います。一番大切なことは、大学の
財政的な基盤をどのように確立していくか、デュアルサポートシステムを支え
る基盤的な資金を、どのようにきちんと確保していくかは研究戦略と経営の問
題として現れています。

<研究拠点としての確立へ>

 私が考える大切なポイントを幾つか述べたいと思います。第1は、運営費交
付金で、効率化でただ減るだけではなく、むしろ増の仕組みとしての教育研究
特別経費のシステムを、これからどう充実させていくか、それがまさに正念場
になってくるのです。

 第2は、法人化の趣旨を踏まえ、各大学の研究戦略をどう確立していくかで
す。そのために各大学をバックアップしていくことを考えたい。このことと関
連して、基盤的資金との関係で、問題意識をもっているのは、大学における様々
な研究用設備について、中長期を見通したきちんとした体制を組まないといけ
ないだろうということです。実際上、いままで日本の大学の研究用設備等の基
盤、インフラに関しては、若干予算構造としていびつな面がありました。

 研究用の大型、中型の設備は、その整備をおおむね補正予算に依存してきま
した。別な言い方をすれば、補正予算があった時点では整備、更新がかなりの
規模で進展した反面、全体としての研究分野、各大学の必要性、ニーズを見通
した形での整備が必ずしも十分でなかったということです。

 平成5年、7年補正で整備されたものは、すでに更新の時期に来たものが多
く、それらを支えるインフラ中のインフラともいえる大型ヘリウム装置なども
そろそろ更新の時期を迎えようとしています。これから財政的に厳しい状況を
迎える中で、研究大学においてすら研究用設備の劣化、基盤の脆弱化が懸念さ
れるのです。

 各大学の状況を見据えつつ、わが国科学技術・学術の全体の分野の水準、動
向を見通した設備の整備・更新をいかにして図っていくかという観点が必要な
のです。今後、研究水準の維持向上という観点から、必要な設備に関しては、
拠点的な整備とか、共同利用を促進しながら、スペースの問題、研究資金の問
題、マンパワーの問題とこれら3つの要素を見渡した形での、研究環境の総合
的・戦略的な整備が必要なのです。その仕組みを早急に整備していかないと、
各大学のみならずわが国の研究基盤そのものが崩壊してしまいかねないことを
恐れます。

 わが国の研究水準という観点から、オンリーワンの設備は、もちろん必要で
すが、それだけではなく日常の研究で対応しきれる設備も必要なのです。他方、
科学研究費補助金等競争的資金による整備には、額にも規模的にも制約があり
ます。それぞれのニーズに応じて整備していく仕組みをどうするのか。それを
可能とするのは、各大学の研究戦略において、設備、研究の場、研究資金、マ
ンパワーをトータルに考えていかないといけないのではないか。

 まさに、大学の法人化の趣旨をいかし、各大学が研究活動、あるいは研究者
の養成という基本的な役割を戦略的に展開できる実質をどう、この5年から10
年の間に確立していくかということが必要なのだと思います。このこととの関
連で、第3に、国レベルでの研究に関するインフラ、研究の各分野を通した世
界的なレベルに向けて競争する、多様な発展と同時に、重点的な発展を可能に
するような国レベルとしての研究基盤の整備のための政策が必要なのだと思っ
ています。

<研究体制の問題>

 第4に、これとかかわって、設備にせよ、施設にせよ、研究のサイドから言
いますと、資源の制約のなかで、選択と集中の問題が避けて通れません。様々
な研究の方向性、研究者それぞれの活動ををどのような形で、蓄積し、相乗効
果を増すような研究体制を組んでいくのか。横の体制をどうつくるか。これが
最大の課題です。研究拠点の形成とそのネットワーク化の問題です。

 例えばナノテクノロジーの場合、ナノ支援プロジェクトとして、関連する様々
な方向性を有しつつも、拠点に共同利用の経費を措置して、共同利用、拠点的
な推進をどう進めるのかということに取り組んでいます。ナノ分野に限らない
ことですが、第一に、法人ごとに様々な優れた研究者、研究活動が部分、部分
で散在している状態から、それを研究の拠点として育てていくことが必要なの
です。その上でそれをさらに発展させるべくどのようにネットワーク、共同化
していくかという目が必要なのです。

 第2に、様々な異なる分野の研究者が恒常的にお互い日常的に接触しつつ相
互の刺激によって新しい研究分野、研究方法の導入とフロンテイアの創出が求
められています。このような新興・融合の研究分野への対応と新しいそのため
の体制作りが、振興局として大きな課題であると考えています。

(次号4面に続く)