トップへ戻る   以前の記事は、こちらの更新記事履歴
新首都圏ネットワーク


『東奥日報』社説 2005年2月9日付


弘大法人化に将来ビジョンを


 問い「弘大は新制大として創立56年。前身の諸学校から起算すると何年くらい?」
 答え「120〜140年」
 問い「予算規模は?」
 答え「2〜400億円」
 問い「大学関係者は何人」
 答え「9千〜1.1万人」
 問い「学生の九割以上が弘前市以外から来ている。親の仕送りの月総額は?」
 答え「5〜7億円」

 これは国立大学法人弘前大学の遠藤正彦学長が、大学への理解を求めて、弘
前市の会合で「市と弘大」をテーマに作成し行ったクイズ(選択式回答)の一
部だ。

 二〇〇四年四月の国立大学法人化から十カ月、弘大は多くの難題を抱えてい
る。これまでの政府、文部科学省の庇護(ひご)から独立した法人組織という
海に放り込まれ、自らの経営努力と感覚で自主自律の大学を創造せよとの変革。
明治の帝国大創設、戦後の新制国立大発足以来の大改革という。

 そうした中で、弘大はこれまでの三大目標である教育、研究、地域貢献を維
持、その中で大学への地域理解がいっそう重要になったとして、開かれた「地
域密着の大学」を目指す考えという。分かりやすい、学長によるクイズという
発想も、その動きの一つのようだ。

 弘大は生活基盤を弘前市に依存するが、市に対しては、水道、下水道などで
最大級の顧客となる。学生の仕送り月総額をみれば地域経済へのメリットも恒
常的で、「医学部教員の持ち家率も極めて高い」と大学は指摘する。

 その一方で「教員たちは町内会などに属さず、大半は域外の人という状況」
(大学)にある。十八万弘前市民、百四十五万県民の中で大学の重みを増した
い−。こう主張する大学に求められるのは、地域の理解や協力を得る姿、地域
と交流し、解け合う気持ちの改革にある。

 いま、法人弘大が直面する難題の一つに財政問題、経営がある。〇二年度決
算をみると、歳出はざっと三百億円。その半分近くを人件費が占める。

 歳入はどうか。付属病院収入が約百二十六億円と自己収入の九割を占め、さ
らに授業料、検定料、入学料などが三十六億円。これに国が配分する「運営費
交付金」約百十八億八千万円が加わる。結果、大学予算はぎりぎりの運営が行
われてきた。

 しかし、今後は、いっそう厳しさが増す。自己収入は国に納めず、運営費交
付金と合わせ大学自身が運用する。その交付金は毎年、事業費の一部が1%削減。
さらに付属病院には2%の経営効率化が求められ、その分も減額されていく。単
純にとらえれば、病院収入では2%アップが必要になる。

 医学部付属病院には、教育・研究はもとより、医療の質を落とさない地域貢
献という大命題が突き付けられており、今後、収支バランスは難題となる。

 大学の自衛策として外部資金獲得による法人独自の基金創設、各種研究費獲
得の戦略がある。が、外部資金導入は不況に加え、県や市の経済、財政基盤か
ら、遠藤学長が再三訴えたように「(大都市などと異なり)地方大学にとり難
路であり、非常に厳しい」。

 有識者は全国八十九大学の中期目標・中期計画が終わる二〇一〇年までに大
学間競争は決着がつくとする。弘大は既存システムの検証による効率化、旧態
の殻から抜け出す内部改革、研究レベルの向上をさらに進めてほしい。意識を
変えるのは組織ではなく人である。大学の恩恵を受ける市をはじめ官民は、大
学への理解をもっと深めるべきだ。

 法人化から間もなく一年。存続へ向け試行錯誤は続くが、弘大は、権限を強
化された学長のリーダーシップの下、思い切った将来ビジョンを示すべきであ
る。