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新首都圏ネットワーク

『予算・授業料情報』No.20

正しい分析と誤った結論:授業料値上げ方針を採用した東京大学

2005年1月26日 国立大学法人法反対首都圏ネットワーク事務局

東大は1月25日午後、研究科長・学部長・研究所長会議、教育研究評議会、経営協
議会を相次いで開催し、「文科省令が改定され標準額値上げが決まった場合には」と
いう条件付きながら、学部、大学院修士課程の授業料値上げの方針採用を確認した。
そして、同日、『来年度の東京大学の授業料について』という佐々木総長名文書(学
生、教職員、それぞれに向けた2文書)を東大ホームページ上に掲載した。同時に、
同ホームページ上に同経済学研究科長神野教授の『国立大学の授業料改定と予算』と
いう解説記事も掲載した。これらは、
http://www.u-tokyo.ac.jp/index/b01_06_j.html で見ることができる。また、同内容を簡略化するとともに、「いまや、この授業料問題は、社会的な一大問題と化していると考える。今回の、国立大学授業料標準額の値上げ計画を機会
に、大学の授業料のあり方について広く社会的関心が喚起されることを切望する。」
との問題提起を含む文書をマスコミに配信した(添付文書参照)。

神野教授の『国立大学の授業料改定と予算』は、今回の授業料標準額改定問題の本質
を鋭く分析したものであり、運営費交付金を含む国立大学関係予算の問題点をわかり
やすく解説している。そして、最後に「高等教育や科学技術の重要性が叫ばれる今
日、国民が予算をどのような使途に使うべきかを、真に選択できるように情報を開示
すべきである。」と問題を提起した上で、「国民は授業料という国民の負担を引き上
げ、批判の多い他の事業に予算を回すために、国立大学への予算を削減しろと主張し
ているのだろうか。」と政府予算案への疑問を投げかけている。東大がこの神野教授
の文書を公式ホームページに掲載したということは、神野教授の分析結果を受け入れ
ていることと判断されよう。

しかし、佐々木総長は『来年度の東京大学の授業料について』のなかで、「文科省令
が改定され標準額値上げが決まった場合」という条件をつけて、財政的理由から授業
料値上げを行うという結論を導き出している。問題は、政府予算案自身が国会で審議
もされていない段階で、政府予算案の国会承認と省令改定という「条件」を前提とし
て、東大がそのような結論を出したところにある。

第1に、そうした条件の設定は、国権の最高機関である国会の機能と権限を否定する
ことを意味する。神野教授も強調するように「授業料問題は国民の意志で」考えねば
ならないが、その方法として国会審議がある。通常国会が始まってわずか数日も経な
い段階で、「遺憾に受けとめている」にもかかわらず、省令改定という条件の成立を
前提とする結論を示したのである。それは、東大が「遺憾な」予算案を提出した行政
府に対する隷属性を示していることに他ならない。

第2に、結論を急いだ理由として佐々木総長は、学生諸君に「来年度の授業料の見通
しを示す必要がある」と述べ、いかにも周知義務に配慮しているかのような素振りを
みせている。しかし、本ネットワーク事務局が『予算・授業料情報No.18』で指摘し
たように、前回の授業料値上げの際には1年前に決定され、数ヶ月前に省令改定がな
されているのである。これと比較するならば、もはや現段階では授業値上げはできな
いはずではないか。学生諸君との関係でいえば、もう一つ重要なことがある。学部学
生の半数を占める教養学部学生に対して昨年10月29日教養学部は正式に「来年度
の値上げはない」と明言している。学生との話し合いもせず、一方的に決定を通知す
ることで済むものではない。

第3に、佐々木総長は国大協会長として、昨年12月8日の臨時総会で確認された授
業料値上げ反対のための行動の先頭に立つ義務がある。22日段階でまだ24大学の
みが値上げを決定したに過ぎず、4割近くがなお未定状態である(23日『東京』な
ど)。にもかかわらず、東大はほとんど率先して値上げ受け入れを決定したのであ
る。苦悶の中で態度を決めかねている大学から見れば、東大の受け入れ決定は、裏切
りにも等しい。

結局のところ、東大は、神野教授の「正しい分析」を活かさず、誤った結論を採用し
たのである。「正しい分析」に従えば、予算案の通過後に授業料値上げを行なうか否
かを検討することとし、それまでの間、“予算案を見直させるため国会に最大限の働
きかけを行なう”と決定すべきであった。神野教授による「高等教育や科学技術の重
要性が叫ばれる今日、国民が予算をどのような使途に使うべきかを、真に選択できる
ように情報を開示すべきである。」との指摘に応えつつ、国民と国会による検討を建
設的なものとするために、東大をはじめ全国の国立大学が果たすべき役割は大きいは
すである。

我々は、開会中の国会に対して、国立大学関係予算の本質と、授業料値上げがもたら
す深刻な問題を具体的資料に基づいて提示し、慎重かつ厳密な審議を求めなければな
らない。さらに、マスコミ向け文書にいうとおり、「社会的な一大問題と化してい
る」授業料問題への関心を広く喚起しなければならない。そして、広く国民の理解を
得て政府予算案を否決し、授業料値上げを排除した新たな組み替え予算を実現させよ
う。そうすれば、佐々木総長のいう「条件」が成り立たず、従って、東大が採用した
誤った結論も発動されずに消滅する。