『予算・授業料情報』No.15

 

授業料値上げ推進側の言い分はここがおかしい

2005年1月20日 国立大学法人法反対首都圏ネットワーク事務局

 

1.授業料値上げの理由は私立大との格差是正なのか?

文部科学省は,授業料改定の主な理由を私立大学との格差是正としている.しかし,文部科学省が当初提出した概算要求では授業料の収入見込みは昨年度とほぼ同じで値上げは想定されていない.私立大と国立大の授業料の比率は,はるか以前に 1975年度から1980年にかけて5.1倍から2倍にまで急ピッチに減少された.それ以降,少しずつ小さくなっているが,この10年間は1.61.7倍を推移し,ほとんど変わっていない.もし,格差是正が理由であるのであれば,何故,概算要求提出から4ヶ月も経った昨年12月になって突然,思いつくのか?また,私立大の授業料は文系と理系でかなり異なり,これをひとくくりにして格差を議論すること自体に問題があることも指摘しておこう.いずれにせよ,格差是正は隠れ蓑にすぎず,先の『情報』No.12で分析したように政府の歳出削減のターゲットにされていることは明らかである.

また,113日の国大協臨時理事会,文部科学省同席しての佐々木国大協会長のまとめで,「授業料値上げの理由として“私立大学との格差是正”があげられているが,それは国立大学の存在根拠を否定することになる」とされている(『情報』No.10).文科省自らが,国立大学の役割として「高等教育と学術研究の水準の向上と調和のとれた発展に大きな役割を担ってきました.具体的には,大学院の整備などにより,我が国の学術研究と研究者養成の中心的役割を果たすこと,学問分野のバランスに考慮しながら必要とされる人材養成を行うこと,都市部だけでなく地方も含めてバランスよく配置することで,地域の活性化や学生の進学機会の確保に貢献すること,などです.」(http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/houjin/03052702/002.htm)と述べているが,格差是正論を強調することは,上記の国立大学の存続基盤を自ら揺るがすことにつながるだろう.

 

2.説明責任は個別大学におしつける文科省の無責任ぶり

文部科学省は,1222日付けの高等教育局国立大学法人支援課長から各国立大学法人学生納付金担当理事に発信された事務連絡「国立大学の授業料標準額の改定について」で,授業料は各国立大学法人の決定事項であり,「各国立大学法人において授業料の額を改定される場合は,学生・保護者に対する事前の周知に努めていただくようお願いいたします.」(http://www.shutoken-net.jp/041229_5c_jimukyoku.html)と,その説明責任は各国立大学法人にあるとしている.しかし,格差是正は,国立大学全体の問題であり,個別大学で対応するべき課題ではない.ほんとうの値上げの理由の説明もしないまま,説明責任だけは個別の大学におしつけるような文部科学省の無責任ぶりにはあきれるばかりである.

 

3.授業料値上げは運営費交付金のさらなる減少を招く

私立大学では,補助金を得るためには,自己収入を増やす自助努力をしなければならない.やむなく授業料を値上げするくらいに自助努力をしているのだから,国からの補助金を増やしてほしいという考え方である.自助努力は補助金の増額に結びつく構造になっている.しかし,国立大学においては,先の『情報』No.12で述べているように予算の枠組み自体が,総額が決められており,自助努力をして収入を増やせば運営費交付金はますます減額される構造になっているのである.この悪循環を断ち切ることこそが今求められているのである.

また,私立大の授業料が下がりにくい中で,国立大学の授業料も増えていけば,互いに高くなり,最終的に国民の教育権が大きく奪われていく危険性が極めて高い.

 

4.授業料をめぐる文部科学省の言い方の変遷

2年前の国立大学法人化の議論の中で授業料の値上げは懸念されていた課題であった.だからこそ,国会審議でも取り上げられ,当時の遠山文部科学大臣は「学生にとって今回の法人化によって授業料が高くなってしまったり利用しにくくなったりということは,これは絶対避けなくてはいけないと思っています.」と語り,また,河村副大臣(当時)も,「授業料等については,これからこういう時代であります.ましてや,デフレ経済のさなかにあるわけでありますから,むしろ抑制ぎみに考えていかなきゃなりません.」と述べているのである.また,衆議院文部科学委員会 付帯決議「 6学生納付金については,経済状況によって学生の進学機会を奪うこととならないよう,適正な金額とするよう努めること.」,参議院文教科学委員会付帯決議「十三,学生納付金については,経済状況によって学生の進学機会を奪うこととならないよう,将来にわたって適正な金額,水準を維持するとともに,授業料等減免制度の充実,独自の奨学金の創設等,法人による学生支援の取組についても積極的に推奨,支援すること.」とされている.このような国会での付帯決議や議論はどのように尊重されているのであろうか?

 

5.各大学での授業料決定のプロセスはどうか?

標準授業料は昨年3月31日の文部科学省の省令で決められており,各国立大学法人はその10%の範囲内でそれより高い授業料を徴収してもかまわないとされている.仮に現時点で大学が授業料値上げを決定するとすれば,それ以外に根拠はない.そもそも文部科学省も概算要求の時点では標準授業料を値上げする予定ではなかった.財務省との予算折衝のぎりぎりの段階で急浮上してきたのだ.来年度予算案は政府案の段階であり,まだ国会審議はおろか上程さえされていないのである.そのような案を学内での十分な議論や説明もなく決めてよいのであろうか?

平成11年度入学以降の学生院生にとっては各自の支払う授業料はスライドで改定されるのであり,在学する学生院生(あるいは保護者)に対する説明責任が生じる.とりわけ,学生に対して値上げしないといった学長には発言の責任を果たす義務があるだろう.また,教員にとってみれば,学生院生とは日々接しており,彼らの問題は自分の問題でもある,また,先に述べたように授業料は運営交付金と連動していることから,自分たちの待遇や労働条件,研究環境に直接的に関わってくる.授業料は教授会,教育研究評議会マターではないということで,情報提供も不十分なままに役員会だけで決定することは許されない.

文部科学省から大学への標準授業料値上げの説明資料には,「新入学生の入学手続き前に授業料改訂がなされていない場合の対応例」として,「入学手続きの際には,授業料を徴収せず,授業料改訂後,4月以降徴収する」「入学手続きの際には,旧授業料を徴収し,後日差額を追加徴収する」などと示されているのである(添付資料参照).国立大学の願書受付が1月下旬に始まろうというのにこのような態度は許されない.そもそも募集要項に授業料を明記するのが当然であり,それを行わないのは受験生やその保護者に対してあまりに無責任ではないだろうか.無責任でも敢えてこのような恥さらしの文書を出した文科省を救うために授業料の改定を急ぐ必要はないのである.

 

6.学長は,まず自らの意見表明に従った行動を!

国大協や,東京11国立大学学長,北東北国立3大学長,中国・四国国立10大学学長,京都大学長など多くの国立大学の学長は,授業料値上げに反対の意見を表明しているのである.これだけ多くの学長が声を上げている中で,佐々木国大協会長は何故理事から要求のあった臨時総会を開かないのであろうか.また,自らの出身母体である東京大学の総長として,時間がないということで,125日に科所長(研究科長・研究所長)会議,教育研究評議会,経営評議会を連続して開催し,値上げ決定の準備を急ごうとしているが,それは何故なのであろうか?東大以外でも,いくつかの大学で授業料値上げを決定したり検討していると伝えられている.授業料値上げへの反対を掲げる一方で学内で値上げの議論を進めるというのはあまりに矛盾している.学長をはじめ,大学執行部がまずなすべきことは,学内で値上げの地ならしをすることではなく,自ら表明した見解に従い,文部科学省の標準授業料値上げの撤回と運営費交付金の増額のための予算案組み替えを目指して文科省や財務省,国会,マスコミなどに働きかけることである.そのためならば,多くの教員や学生も協力を惜しまないであろう.