05年度国立大学関連予算案を全面的に批判する

2005年1月18日 国立大学法人法反対首都圏ネットワーク事務局

 

本事務局は昨年末の12月30日「2005年度国立大学関係予算政府案を分析する」を発表し、その後『予算・授業料情報』を発行して、情報の収集と分析に努めてきた。また、各大学等でも批判的分析が年末年始にもかかわらず精力的に進められてきた。これらの成果を参考にしつつ、05年度国立大学関係予算案の全面的な分析を試みる。なお、文科省資料中の数字は、億円単位の切り上げ、四捨五入が混じっており、資料間で統一されていないことがある。このため、本分析においても同じ項目の最後の一桁が不一致となることがあることをご了解頂きたい。

 

1.05年度国立大学関連予算案のアウトライン

既にこの間紹介してきたことであるが、文科省資料によってもう一度整理しておく(http://www.shutoken-net.jp/041229_5b_jimukyoku.pdf)。05年度(来年度)運営費交付金は04年度(前年度)に比して98億円減=0.8%減、施設設備費補助金は124億円減=23%減という大幅削減案となっている。この運営費交付金削減を行うために、国立大学学生納付金(以下、授業料)標準額15,000円増額(総額81億円増)によって「授業料等収入」が86億円増額されている。さらに、「病院収入」では経営改善額92億円を含めて104億円増が見込まれている。こうして、「運営費交付金」+「授業料等」+「病院収入」+「雑収入」の総収入額が今年度比で91億円増額されている。

この91億円の収入増額は、必ずしも事業費の増額を意味しない。支出面を見てみよう。まず、その圧倒的部分は、「退職手当等」の「当然増」78億円や新たに支出せねばならない固定資産税等の「当然増」対応とならざるをえない。また、特別研究経費45億円の増額に対して、基盤的な経費である教育研究経費は51億円削減となっている。

 

2.主要な削減ターゲットとしての国立大学関連予算

本ネットワークの『予算・授業料情報』で指摘したように、政府は国立大学等の運営費交付金を予算削減の主要なターゲットとしている。新たな事実を含めて以下に整理してみる。

(1)05年度予算で「予算配分の重点化」として掲げた4つの課題の1つは「人間力の向上」(04年12月24日経済財政諮問会議で谷垣財務大臣提出資料P8:http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2004/1224/item3.pdf)である。この課題の内容として、「大学改革の一層の促進」が対前年度比533億円増(18%増)、「競争的研究資金の拡充」4,672億円増(30%増)があげられている。ところが、運営費交付金は前年度比0.8%減となっており、これは一般会計予算における一般歳出の0.7%減さえ上回る減額である。このことは、政府が国立大学の教育研究基盤を整備拡充することは「人間力の向上」に役立たないという認識を持っていることを意味している。「文教関係予算のポイント」(資料参照pdf版)をみると、そのことは一層はっきりする。ここでは、「単なる機関補助の縮減・抑制を図る」と明記され、「国立大学法人への運営費交付金を算定ルールに基づき縮減 12,416億円→12,317億円(▲98億円)」と誇らしげに記されている。

(2)05年度予算案では公共事業関係費は対前年度3.6%に留まっているのに対して、施設整備費補助金は23.3%減(124億円減)と激減している。一応、今年度補正予算において防災対策事業(老朽改善)用に施設整備費補助金が350億円用意され、次年度繰越されるが、06年度(平成18年度)以降の予算は05年度が基準となるため、新規はおろか老朽改善も不可能となろう。

 

3.政策的裁量に基づく運営費交付金の大幅削減

(1)運営費交付金の収支構造

運営費交付金削減は「算定ルールに基づく」とされているが、実態は国立大学の教育研究基盤を切り崩す「政策的裁量に基づく」ものと考えざるを得ない。以下に、まず運営費交付金の収支構造をみてみよう。

1)文科省の05年度概算要求では、対前年度比2.0%増の12,666億円が要求されているが、予算は周知のように0.8%減の12,317億円にまで削減された。その削減要因は、第1に概算要求では想定していなかった授業料値上げが組み込まれたこと、第2にルールではなく査定で決定できる特別研究経費と退職手当等が減少させられたこと、にある。従って、この削減は、ルールによるものではなく、裁量に基づいて行われたと判断するのが妥当であろう。また、退職手当等の当然増が大幅に削減されたために、運営費交付金は当然増すら確保しない事態となったのである。

 

表1:運営費交付金の収支構造の推移

運営費交付金の収支構造の推移

 

 

 

 

 

 

 

単位:億円

 

平成16年度予算

平成17年度概算要求

平成17年度予算

収入

 

 

 

運営費交付金

12,415

12,666

12,317

授業料等

3,480

3,485

3,567

病院収入

5,957

6,062

6,061

雑収入

121

120

120

21,974

22,333

22,065

支出

 

 

 

教育研究経費

13,387

13,315

13,336

特別教育研究経費

741

982

786

退職手当等

1,305

1,478

1,383

病院関係経費

6,541

6,558

6,560

21,974

22,333

22,065

(四捨五入のため数字の不一致がある)

2)退職手当等の当然増は173億円増の概算要求がなされた。これは教育研究経費の効率化減97億円を当然増が76億円上回ることを意味する。この効率化減を上回る当然増の部分を81億円の授業料値上げでまかなおうとしたとみなすことができる。すなわち、国家が“当然”保証すべき当然増すら大学と学生に押しつけようとしている。

(2)国立大学に集中的な打撃

対前年度98億円削減となった運営費交付金は4共同利用機関を含んでいる。そこで、運営費交付金の内訳を、国立大学89法人と4共同利用機関を含めた93法人分に分けた表2を提示する。ここで89国立大学に注目するならば、運営費交付金は実に124億円も減額されている。一方、4共同利用機関では26億円の増額となっている。特別教育研究経費については、国立大学が21億円増に対して共同利用機関では24億円増となっている。誤解しないで頂きたいが、我々は共同利用機関が増額になっていることを批判するつもりは毛頭ない。そうではなくて、13日の臨時理事会において文科省側が語った「国立大学の運営費交付金が123億円減となっているのに対して共同利用機関が25億円増となっているのは、国立大学は授業料等の収入が存在するからであるのに対して、共同利用機関にはそうした収入がないからである。」という政府・文科省の授業料値上げ依存方針を批判しているのである。

表2 国立大学、共同利用機関の運営費交付金

 

 

 

 

単位 億円

 

 

16年度予算

17年度予算

増減

特別研究経費

国立大学

367

388

21

 

共同利用機関

374

398

24

 

741

786

45

退職手当等

国立大学

1,263

1,336

73

 

共同利用機関

42

47

5

 

1,305

1,383

78

病院相当分

国立大学

584

499

85

 

584

499

85

それ以外

国立大学

9,297

9,165

132

 

共同利用機関

489

484

5

 

9,786

9,649

137

総計

国立大学

11,512

11,388

124

 

共同利用機関

905

929

26

 

12,416

12,317

98

(四捨五入のため数字の不一致がある)

 

(3)早晩破綻必至の附属病院経営

一般に、医療比率(患者の診療に直接必要な医療費用請求額)は40%程度といわれている。収入の項目にあるように病院収入を105億円増加させようとするのであれば、42億の経費増が必要ということになる。ところが、支出の項目における病院関係経費を見ると対前年度でわずか19億円の増加である。また、病院診療関係の運営費交付金は実に対前年度比で85億円減となっている。付属病院経営の破綻は目に見えていると言わねばならない。

 

4.授業料標準額改定(値上げ)は第3の運営費交付金削減方式

授業料標準額改定(値上げ)の動きがあらわになった昨年12月14日、本事務局は「国立大学法人には、運営費交付金削減の新たなシステムが導入されることになる。」と訴えた。その後、明らかになった05年度政府予算案は、我々の指摘どおり、授業料値上げが効率化額、経営改善額に続く第3の運営費交付金削減方式であることをしめしている。しかも、効率化額、経営改善額が曲がりなりにも「算定ルール」によって決定されるのと違い、授業料値上げは政府の裁量によって決定される。ここに至って、第3の運営費交付金削減方式=授業料値上げの出現によって、運営費交付金は政府の裁量によっていかようにも削減できることになる。

このような内実をもつ政府予算案は、しかしながら、閣議決定されただけに過ぎず、21日より始まる通常国会審議を受けなければならない。各大学、国大協は、審議も始まっていない、しかも授業料標準額改定(値上げ)のための省令「改正」も行われていない段階で、政府案に右往左往してはならないのである。ましてや算を乱して値上げ決定をするなどもっての外である。それはこの間幾度となく繰り返してきた行政府への無原則的な屈服をもたらす。そのような態度をきっぱりと断ち切り、国権の最高機関である国会に対して堂々と政府予算案の危険な本質を明らかにし、予算の組み替えを求めることこそ、大学の将来に責任を持つものがなすべきことである。組み替え要求の実現は、運営費交付金制度そのものを抜本的に改革する第一歩となろう。

 

【補】運営費交付金削減圧縮という文科省の主張は全くの嘘である

文科省は、しきりと「効率化額97億円+経営改善額92億円=189億円の削減分を98億円まで圧縮した」とその「功績」を強調している(文科省資料G)。さらに、最近、「授業料標準額の改定による増収予定額(81億円)は、運営費交付金の減額とはなっていない」という「珍論」まで持ち出している(13日の国大協臨時理事会)。

しかし、これらは全くの嘘である。前者について言えば、文科省資料Aにあるとおり効率化額は支出の項目であるのに対して、経営改善額は収入の項目に属する。相対立する収入と支出の項目を加算することはできないことは明白である。後者は、文科省自身が示した運営費交付金算出式(http://www.shutoken-net.jp/050106_2naiji.pdf)のなかで 授業料標準額改定増収額が運営費交付金の△減要因となっていることから見てもあり得ない。

真実は、効率化額97億円減を含んだ「教育研究経費」+「特別研究経費」+「退職手当・特殊要因」+「病院関係経費」として算出された支出総額(文科省資料Aの右のコラム)から、収入項目としての経営改善額92億を含んだ「病院収入」、「授業料等」、「雑収入」を引いたものとして「運営費交付金」が算出されるのである(文科省資料Aの左のコラム)。「授業料等」を値上げによって増額させれば、「運営費交付金」がその分減額するのは当然ではないか。文科省がそのことを知らないはずがない。だとすれば、嘘によって大学関係者や学生ならびにその保護者達を騙そうとする悪質な意図があると言わざるをえない。