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新首都圏ネットワーク


『朝日新聞』2005年1月17日付

[変わる大学―九大は今]

九大、産学連携を拡大
「商社役」、海外進出仲立ち

 産学連携を進める九州大学が、得意とされる理工系の技術開発だけでなく、
文科系と関連の深いビジネス分野でも企業との関係を深めようとしている。国
立大学法人化によって財源の多様化を迫られ、将来の収益源確保が狙いだ。だ
が、組織の効率的運営や意識改革などの課題も多い。(山本晃一)

 「中国での特許申請や市場の情報など、色々と手伝いますから」。福岡県北
野町の船舶用製氷機メーカー、アイスマンの秋山知昭社長は、九大産学連携セ
ンターのアドバイスを受けて中国進出の準備を進めている。

 きっかけは2年前、九大からの「中国に進出しませんか」との電話だった。
秋山社長は「なぜ大学から」といぶかった。

 九大は02年、中国の上海交通大と産学連携事業の推進で提携。上海交通大
から「漁船上で海水を製氷する装置が望まれている」と頼まれ、同センターの
谷川徹教授らが同社を探し当てた。

 製氷機は船上で魚を冷蔵するために使われる。同社の製品は80年ごろ、底
引き網漁業に重宝され、年100台も売れた。だが、今では注文は皆無だ。

 両大学は秋山社長に、中国の漁業や製氷機市場、メーカーの技術力、法制度
などの情報を提供。いわば商社の役割を担った。

 秋山社長は当初「コピーされないか」とためらったが、中国に足を運び「コ
ピーされても重要技術の流出にはならない」と進出を決めた。日本では1台約
200万円だが、70万円前後に抑え、月産5台程度を見込む。

 「金融機関は金利をどう決めるか」「時価と簿価の違いは」。毎月隔週土曜
日の午後、北九州市のTOTO本社研修センターに、普段着の社員約30人が
集まる。

 九大大学院ビジネススクールが講師を派遣する出前講座の「九大TOTOビ
ジネス・カレッジ」だ。学位は得られないが、内容は経営学修士(MBA)ク
ラスに相当する。講座内容は両者が話し合って決めた。

 スクールは03年4月に開講。専任教官20人のうち10人をトヨタ自動車
など産業界から招いた。出前講座の狙いは、産業界との関係強化と財源づくり。

 講座では、講師の実務体験が紹介され、質問が飛び交う。受講生でTOTO
では労働組合に籍がある吉川考司さん(36)は「会社全体を考える良い機会
だ。うちの財務を自分なりに分析したい」と話す。

 九大がTOTOから得る受託料収入は年間数百万円。TOTOでの講座は0
5年度も続け、他社からも要望があれば応じる。スクールの担当者は「産業界
との共同事業や九大ブランドの向上に役立つ」と期待する。