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新首都圏ネットワーク


『毎日新聞』愛知版 2004年12月20日付

この人に聞きたい:愛知県立芸大学長・島田章三さん /愛知


 ◇芸術の意義、県は再考を−−3大学1法人化しても独自性が必要

 県は現在、県立3大学の今後のあり方を検討しており、有識者による検討会
では県立大学不要論まで飛び出した。県立芸術大(長久手町)の学長を務める
洋画家、島田章三さん(71)は3大学統合論に強く反論してきたが、結局、
3大学を1法人で運営するという報告書が県に提出された。今秋、文化功労者
に選ばれた島田さんに、県芸大の存在意義を聞いた。【荒川基従、写真も】

 −−文化功労者、おめでとうございます。

 生涯青春でいたい。70歳は、もうちょっと仕事をしなければならない年と
思っています。

 −−創作を続けながらの学長の仕事、大変でしょう。

 僕は1966年の開学に参加し、この地に芸大を作った責任がある。二足の
わらじを履きつぶすぐらいやらなければと考えてます。

 −−今後の県芸大のあり方について、教授会で言ったことは。

 「法人化は決まったことだから仕方ない。だが芸大の顔が見える法人にする
ため、3大学3法人でいこう」と話した。芸大はマンツーマン方式。私は「点
の教育」と言っています。それが線になり、面に成長していく。そこが他大学
とは違うから、芸大単独でないといけない。

 −−でも1法人になりそうです。

 芸大は非常に奥が深く、目に見えないものに立ち向かう。その教育を充実、
持続させていくのに、法人化にはいろんな問題があると思います。

 −−これからの県芸大の姿は。

 芸大はいま、カイコからサナギ、チョウになる変身の時。全国の芸大では、
映像やガラスの学科ができたり試行錯誤している。県芸大でも映像を一つの形
にしたいし、日本人のオペラがどこまでいくのか極めてみたい。邦楽も組み込
めないかと思う。やらなければならないことは非常に多い。「芸術というのは
こういうものがあるんじゃないか」と考えるいいチャンスです。

 −−でも、残念ながら世の中「カネがない」の声ばかりです。

 まず予算ありきで「これだけのお金で処理しなさい。芸術全部をやってくだ
さい」みたいなことを言われる。芸大をつくった県に、芸術というものをもう
一度考えてほしい。私立の女子美術大では100年、東京芸術大は100年以
上。県芸大は38年なのに、「芸術はカネが掛かるからやめましょう」と手放
していいのか。「県立なんかいらない」とおっしゃった検討会の委員がいたが、
県芸大目指してピアノやバイオリンを習っている小学生がいる。その芽を摘ん
でいいのか。もちろん、スリムにしなければならない部分があるかもしれない
し、どこをスリムにし、どこを厚くするというリストラも考える必要はありま
す。

 −−検討会では「県立大の役割は終わった」という意見もあった。

 僕は東京芸大卒です。学費がすごく安く、自由に学べた。そういう部分で、
僕が一県民でも、県立の大学はつぶすわけにはいかないと思うでしょうね。ま
た、芸術家の多くは芸大で教えて飯を食っている。演奏会だけ、絵だけ売って
生活できる演奏家、画家はほんの一握り。芸大が芸術家の生活の糧なんです。

 −−県が芸大を持つことの意味は。

 この地方は工業、経済の国。そこに潤滑油になる芸術というものを入れよう
と県芸大ができた。工業、産業とは違い、人間の心を癒やす芸術をこの地に根
付かせようとしているんです。

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 ■人物略歴

 ◇しまだ・しょうぞう

 1933年神奈川県横須賀市生まれ。日本芸術院会員。国画賞、大橋賞、安
井賞、宮本三郎記念賞などを受賞。69年に県立芸術大助教授、74年教授、
92年に芸術活動に専念するため退職。01年から学長。