トップへ戻る   以前の記事は、こちらの更新記事履歴
新首都圏ネットワーク


『朝日新聞』2004年12月13日付

「大学Gメン」始動 外部機関が認証評価


 「マル査」が、大学に入る。今年度からすべての大学・短大が第三者機関に
よる認証評価を義務づけられた。経営や授業内容、入試の状況まで詳細に調べ、
結果は公表される。大学の自己改革を促し、教育の質の向上につなげるのが狙
いだ。国立大法人化や設置基準の緩和など大学改革が加速するなか、「事前規
制から事後チェックへ」の試みをみた。

 黒板を背に並んだ15人のGメン。国学院大法科大学院の1年生50人と向
かい合い「学生との対話の時間」が始まった。

 この大学の評価にあたる評価機関は「日弁連法務研究財団」。弁護士や他大
学の法学教員らでつくる評価チームが学校を訪問し、大学の授業内容からカリ
キュラム、入試状況にまでメスを入れる。

 「今朝の公法の授業、説明抜きで議論に入ったけれど予習は十分できた?」。
面接に先立ち見学した授業について、評価委員が問いかけた。学生の手が次々
に挙がる。「やりきれていない」「全般的にかなりの詰め込みだ」

 「教員との対話」でも、どのように成績を評価しているのか、新司法試験へ
の対応はどうするのか、ふさわしいテキストを使っているかなどに委員は切り
込んだ。

 別室では、実際に学生が書いた答案用紙を1枚1枚チェック。「2行しか書
かれていないものもありますね。設問が難しすぎるのでは?」

 午後6時半、10時間にわたった現地調査が終わった。もっと双方向の授業
にすべきだ、学生とのコミュニケーションを充実させるべきだ、などの注文が
ついた。

 平林勝政・同大法科大学院長は「実際、評価される側はしんどい。だが、客
観的な評価は改善のためには欠かせない。早速取り組みたい」。同大学院では
12月の教授会で、カリキュラムの変更などを決定した。

   ■  ■

 同財団は今年8月、文科省から法科大学院の評価を担う機関として認証され
た。本格評価は初の卒業生が出る08年以降だがすでに試行的に評価を始めて
いる。

 大学側は事前に自己点検した結果の評価報告書を提出。これをもとに、9分
野47項目について評価を受ける。

 項目別に「合否判定」か「5段階評価」があり、重要な項目で一つでも「否」
または最低の「D」があれば、「不適格」になる。評価委員らは、実地調査の
前日からホテルに泊まり込む。本格調査になれば3泊4日の日程だ。

   ■  ■

 学校教育法の改正により、今年4月から国公私立すべての大学・短大と高等
専門学校は7年ごと、法科大学院など専門職大学院は5年ごとに国の認証を受
けた評価機関による外部評価を受けることになった。国は「不適格」になった
大学に対し、改善を勧告することができ、改善がみられない場合などは、最終
的に廃校も命令できる。

 大学側が多元的な評価を受けられるようにするため、複数の評価機関が独自
に評価基準を定める。現在、同財団と「大学基準協会」が認証機関として活動
を始めており、このほか「大学評価・学位授与機構」や「短期大学基準協会」
「私立大学評価機構」が認証を申請中だ。

   ■  ■

 全国の約300校でつくる大学基準協会は96年から、加盟判定や相互評価
などを計250回行ってきた。評価機関となった今年は、35校が評価を受け
た。10月までに実地調査が終わり、今月末には評価結果が各校に通知される。
大学側は評価に疑問点があれば異議申し立てができ、3月には結果が公表され
る。

 基本的には他校の大学教員が無償で評価にあたる。大学基準協会の場合、今
年は延べ300人がかかわった。それだけの人数を確保し続けられるのか、教
員同士の評価でなれ合いにならないのか、専門的な分野で教育の「質」をどう
判断するのかなど、課題も指摘されている。

 評価の基準や評価機関のあり方、国際的動向などを研究し、学問的に「大学
評価」を対象にしようと、今年3月には大学評価学会も設立された。

 2010年までには既存の全大学が一度は評価を終える。大学は正面から、
社会に試されることになる。

    ◇

 《大学・学部に対する点検、評価項目の例》

・理念
・目的や教育目標
・教育研究組織
・教育研究の内容、方法と条件整備
・学生の受け入れ
・教育研究のための人的体制
・施設、設備など
・図書館及び図書などの資料、学術情報
・社会貢献
・学生生活への配慮
・管理運営
・財政
・事務組織
・自己点検、評価
(大学基準協会の場合)