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新首都圏ネットワーク


首都圏ネット事務局です。

 12月8日の国大協臨時総会にあたって、下記の声明を発表いたしました。
この声明と国会内ポスターセッションの関連資料を総会会場にて参加各大
学に配布いたしました。

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  国立大学法人と財政危機―予算編成と国大協臨時総会に寄せて―

       2004年12月8日 国立大学法人法反対首都圏ネットワーク事務局

はじめに

 国立大学法人の財政は、未曾有の危機にある。国会附帯決議(参議院文教科学
委員会)は、「運営費交付金等の算定に当たっては、・・・法人化前の公費投入
額を踏まえ、従来以上に各国立大学における教育研究が確実に実施されるに必
要な所要額を確保するよう努めること」と全会一致で決議を行った。それにも
かかわらず、現実には法人化固有の費用が措置されないばかりか、2005年度以
降には「効率化係数」「経営改善係数」などの名の下に、運営費交付金の逓減
が企図されている。さらにいわゆる「シーリング問題」も何ら決着していない。

 教育・研究の現場では、多くの大学において予算が40〜50%削減されている。
このため、従来通りの教育・研究経費はすでに前期において底を付いている。
財政不足を理由に、サービス残業が横行するとともに、同一労働にもかかわら
ず低賃金しか支払われていない非常勤職員は、さらに「雇い止め」という名の
解雇の危機にさらされている。非常勤講師に対する給与削減とコマ数削減は暴
力的とも言えるものになっており、とりわけ専業非常勤講師の生活と研究を脅
かしている。

 こうした状況の下で、国立大学法人法体制を受け入れた国立大学協会は、そ
れゆえにこそ、財政問題に関する抜本的な取り組みを行う責任を負っている。
本国大協臨時総会は、「国立大学法人の予算について」を議題とし、予算編成
関連の活動について議論することを予定している。高等教育予算の抜本的拡充
という一般論だけでなく、政府の政策動向と現場の教育・研究を踏まえた、具
体的かつ根本的な議論が求められる。

一、国会内ポスターセッションの成果

 私たちは、2004年11月1〜2日の両日、衆参両院において「国会内ポスターセッ
ション」を行った。これは、現下の国立大学法人の財政問題を解決するために、
議員各位に現状認識を深めていただくと同時に、その解決の方途を示したもの
である(添付資料をご覧いただきたい)。

 私たちの結論は以下の通りである。

(1)附帯決議違反と労働法制違反の状態を今年度中に解決するためには、最低限
以下の費用が必要である。

○法人化にあたって新たに発生した経費→355 億円
○「サービス残業」解消のための経費→274 億円
○"同一労働・同一賃金"の原則に反する非常勤職員の均等待遇化経費→320億円

 以上の経費総額は推計約949億円であり、これは補正予算によって措置すべ
きである。

(2)国立大学法人の運営費交付金の算定について、現在の「総額管理・各種係数
による逓減方式」をあらため、当初の制度設計である「収支差額補填方式」に
戻すこと。

 国立大学法人法案の審議過程では、運営費交付金は従来の交付金制度を引き
継ぎ、「収支差額補填方式」が想定されていた。しかし、法成立後になって、
財務省は強引に「総額管理・各種係数による逓減方式」を要求し、文科省はこ
れを受け入れたのである。このため、国立大学法人はひたすら経営重視に傾斜
し、特に病院はその半数が赤字転落を予想していることもあって、収支改善の
ために収益部門の重視と混合診療の導入へと向かっている。こうした状況をあ
らためるには、「収支差額補填方式」への転換が必須である。

二、国立大学法人の財政問題に関する政策動向

 「平成17年度予算編成の基本方針」(閣議決定)、「知的財産推進計画2004」
(知的財産戦略本部)、「我が国の高等教育の将来像(審議の概要)」(中教審)な
どの文書によれば、法人財政に関する政府の基本的な政策動向は次の通りであ
る。

(1)政府は、国立大学法人運営費交付金及び施設整備費補助金について、経営努
力を重視するのみで、「所要額の確保」のための具体的施策に言及することは
ない。

(2)政府は、基盤的経費の助成よりも競争的資源配分を重視し、「選択と集中」
という経営用語を大学に適用しようとしている。特に、「21世紀COEプログラム」
「特色ある大学教育支援プログラム」等の競争的・重点的支援を通じて、「競
争原理に基づく支援策へのシフトを促進し」、機関補助を通じた高等教育の種
別化を進めようとしている。

(3)政府は、「科学技術創造立国」という国策遂行に沿った分野のみを重点化
し、「その他分野においては一層の効率化・合理化を図る」としている。

(4)政府は、「知識基盤社会」「知識経済」への対応のために、イノベーション
の中核に大学を位置付けようとしており、大学の研究・教育の双方を「知的財
産立国」のために一元化しようとしている。

 このような政策が適用されれば、基礎的な研究・教育分野の崩壊と、大学の
国策への一層の従属が進行することになる。運営費交付金自体もまた、競争的
資金とみなされることになりかねない。本来的に、高等教育への投資の水準と
あり方についての議論が欠如したまま、縮小の中の特化が進むのである。

 また、政府は「自己財源」の充実を強調することで、授業料等の引き上げに
誘導し、同時に奨学事業等を「意欲と能力のある個人の主体的な自助努力」の
支援に限定することで、学生の階層化さえ促進しようとしている。

 このような政策動向に追随し、国立大学の法人の予算を編成していけば、大
学内で立場の弱い分野や構成員に矛盾を皺寄せし、大学の公共性や、構成員の
協働関係にとって破滅的な結果をもたらすことになろう。

三、補正予算と2005年度予算

 報道によれば、財務省は今年度補正予算案について、総額を4兆8000億円規模
とする方向で最終調整に入ったと言われる(『日本経済新聞』2004年12月3日)。
景気回復を背景に、税収見込みを当初予算より2兆円規模で上方修正するほか、
2003年度決算で生じた約1兆円の剰余金などを財源に充てる、とされる。日程と
しては、12月20日に補正案の決定が行われ、来年の通常国会に来年度予算案と
同時に提出される予定である。

 また、共同通信(12月6日)によれば、通常国会の招集は、2005年1月21日が予
定されており、その冒頭で補正予算の審議が行われる。審議予定は、衆議院3日、
参議院3日程度とも言われる。

 国大協は、ただちに、政府に対して補正予算要求を行い、数千億円と見込ま
れている「義務的経費」の増額分などにおいて、法人化経費の欠損分を措置さ
せることが必要である。

 2005年度予算編成に関しては、政府は、次のように述べている。「「義務的
経費」は、自然増を放置することなく、制度・施策の抜本的見直しを行い、歳
出の抑制を図る。裁量的経費は、前年度予算額から2%減算(「科学技術振興費」
に相当する額を除く。)した額を上限として縮減を図る。」運営費交付金が裁量
的経費と位置付けられれば、さらに2%以上の減算(!)が企図されているのであ
る。これは、国立大学財政にとって破滅的であろう。運営費交付金の位置付け
の転換が是非とも必要である。

 同時に、すでに一で述べたように、運営費交付金を「収支差額補填方式」に
抜本的に改変することが、国立大学法人財政の改善のために必須である。

 本国大協臨時総会では、これらの方針を取り、そのためのあらゆる努力を行
うよう強く求めるものである。