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新首都圏ネットワーク


『朝日新聞』社説 2004年11月29日付

株式会社大学――受験生に十分な情報を


 国内にある大学と大学院大学はすでに計700を超えている。大学設置・学
校法人審議会が新たな開校を認めるよう答申し、来春はさらに14校が加わる
ことになった。

 今年度、改革特区を利用して二つの株式会社が大学を開いた。来年度は、両
社が新たに学部や大学院を増やし、さらに3社目の大学院大学が生まれる。

 かつて私立大学をつくれるのは学校法人に限られていた。法人は事業を長く
続けることが求められ、設立にあたっては資産や組織面で厳しい条件が付く。

 営利が目的の株式会社は、収益が見込めなければ事業を続けるのは難しい。
早い撤退もありうるだろう。

 それでも政府が特区まで設けて株式会社に道を開いたのは、新しい発想での
運営や教育方法への期待があるからだ。

 3社は司法試験の予備校の経営や企業の研修などで実績があり、ひと味違う
方針を打ち出した。社会人も学べる昼夜開講制、2週間の集中カリキュラム、
IT(情報技術)を駆使した授業など、他校が参考にすべきことは少なくない。

 一方、設置審査のなかで、株式会社大学の問題点も明らかになった。専任教
員に数万円の月給しか支払わない。大学図書館が100冊しか収容できない。
語学教員が少なすぎる――。

 大学設置審は、3社に改善すべき留意事項として、それぞれ10項目前後を
示している。一般の大学に比べ、けた違いに多い。文部科学省は1期生が卒業
するまで毎年報告を求め、さらに実地調査もするという。3社は一刻も早く改
善の実を上げなければならない。

 大学の質を保障するために、以前から大学設置基準が設けられている。校舎
や校地の保有などを定めていたが、近年、大幅に緩和されてきた。事前の規制
から事後チェックに重点を移したためだ。

 だが、私立大学を評価する機関はできたばかりだし、実際の評価は7年に1
度しか回ってこない。審査を緩めただけでは、受験生に大きなリスクを背負わ
せることになる。

 何よりも大切なのは、受験生に十分な情報を伝えることだろう。受験者数と
入学定員が並ぶ「大学全入」は3年後に迫った。定員割れの私大はすでに3割
近い。大学がつぶれかねない時代に入っていることを認識すべきだ。

 文科省は昨年度から、各校が改めるべき事項をホームページで公開してきた
が、それに対する学校側の改善報告や調査結果は公表していない。これでは受
験生は判断のしようもない。一般の大学も含めて内容を明らかにすべきだ。

 学校法人は財務資料の公表を義務づけられたが、大学を持つ株式会社も財務
諸表などを公表する必要があるだろう。

 政府は年内に株式会社大学の評価を始め、全面解禁を検討する方針だ。しか
し、留意事項の改善はこれからである。評価を下すのは、最初の卒業生が出て
からでも遅くはない。