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新首都圏ネットワーク


『文部科学教育通信』 2004年11月22日号 No.112

教育ななめ読み 59 「法人化狂想曲・公立の巻」
教育評論家 梨戸 茂史

 公立大学の法人化が騒がしい。各自治体で思惑が色々。今春から公立大学も
法人化できることになったが、早速、法人としてスタートしたのは秋田の国際
教養大学。栄えある第一号。すべての授業を英語でやるというので有名になっ
た。複数の大学を有する一三の自治体のうち五つが統合計画を持つ。兵庫県は、
この四月に商科、工業、看護の三大学を統合したが、法人化はしなかった。他
の公立大学はさてどうするのか。この改革には各種のパターンが見受けられる
(以下、音楽用語が間違っていたらごめんなさい)。

 まず、ア・テンポ(元の速さで)「静観」型。国立大学だって始まったばか
り。何もあわてて"改革"を振り回すこともなかろうと様子見。四年制の公立大
学を設置する六〇団体中、一五が法人化を検討しているとされるから静観型は
四分の三。

 第二はアルモニオーソ(調和して)「思惑一致型」。たとえば、札幌医大。
大学は大学間競争で予算執行の自由や民間企業との連携をめざし法人化を考慮。
道は財政改善の意図。両者の考えが一致した。

 第三はアダージョ(ゆるやか)「順当」型。島根県がそれ。現在は県立大と
県立女子短大、県立看護短大が三市に分散。女子短大の学科を再編するほかは
現状維持でキャンパスも入学定員も同じ。県立が公立法人立になるだけ。県内
に短大進学の進路を確保するとして短大は併設で残す。

 第四はアジターレ(ゆり動かす)「激論中」型。愛知県には県立大と県立芸
術大、それに県立看護大の三つがある。これをひとつの法人にする計画がまと
まったそうだが、一法人一大学とするのか一法人が三大学を設置する複数大学
型にするかもめている。委員会では、三大学の役割は終わった、大学教育は私
学にまかせればいい、やら、看護大は高齢化社会に必要とか、県立大は地域学
部にせよ、などの意見のほか、一大学にして一〇年計画で県の補助から独立す
べきだなど議論の最中。

 第五はアマレッツア(苦悩)「女子懸案」型。高知では高知女子大と高知短
大があり、最終提言では女子大を共学化し、短大は社会系学部を設けることで
廃止の方向を決めた。これに対し、同窓会が異議。女子教育の拠点を残すべき
だと主張している。短大存続派もまだ短大は必要と言う。女性の強いお国柄だ
からさてどうなる。

 第六はアレグロ(快速に)「乗り遅れるな」型。大分県には県立看護科学大
と県立芸術文化短大。長崎には県立大と県立シーボルト大学がある。前者はま
だ検討が始まったばかり。後者は二大学の再編・統合を考えている。よその動
きに遅れないのが大事ということなのかな。でもせっかくのユニークな大学名
は残るのでしょうか?

 最後のパターンはアスプレッツァ(荒々しく)「破壊」型。いわずと知れた
東京都。都立大、都立科学技術大、都立保健科学大学の四年制のほか都立短大
を「首都大学東京」とする構想。都市教養学部など、ある意味で斬新なイメー
ジだが内容がはっきりしない。改革ではなくて壊して新しいものを作ろうとし
ている印象。新しい大学に移らない教員は文学部で二三%、経済学部で四七%
などという数字もある。全体の四大学・短大では約六〇〇名の教員中一〇〇名
以上が"移行しない"そうだ。平成一五年度に二件の二一世紀COEプログラム
が採択された都立大では教員の流出で「金融市場のミクロ構造と制度設計」な
るプログラムが平成一七年度以降できなくなった。制度設計でけちがついたか。
平気な知事と面子をつぶされた大学関係者の困った図の大混乱。「法人化」が
火付け役になったのですね。